タイトル |
環礁島の貴重な水資源である淡水レンズは一度塩水化すると復元は困難である |
担当機関 |
(独)国際農林水産業研究センター |
研究期間 |
2007~2011 |
研究担当者 |
小林 勤
幸田和久
万福裕造
石田 聡
吉本周平
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発行年度 |
2010 |
要約 |
太平洋諸島の環礁島では、淡水レンズ貯留量の約1.8倍の涵養があるにも拘わらず、1998年の干魃に発生した過剰揚水による淡水レンズ塩淡境界の部分上昇が2010年まで続いている。一度塩水化した淡水レンズを自然の涵養で復元することは困難である。
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キーワード |
環礁島、淡水レンズ、アップコーニング
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背景・ねらい |
太平洋には約3万の島が存在し、そのうち約千の島が居住地であり、ほとんどが開発途上国にある。中でも低平で面積の小さい環礁島は水資源が脆弱である。淡水レンズは島嶼において海水を含む帯水層の上部に密度差によってレンズ状に浮いている淡水域を指す(図1)。水源を淡水レンズに依存している低平な小島嶼の水資源は、地球温暖化に伴う海面上昇によって塩水化が進むと予想されるとともに、揚水量の増加や干ばつ等による涵養量の減少の影響を受けやすいことから、その保全のための技術開発が求められる。そこで、淡水レンズが発達しているマーシャル諸島共和国マジュロ環礁ローラ地区を例に、地下水の塩水化状況を現地調査によって確認する。
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成果の内容・特徴 |
- 2009年10月、ローラ地区の淡水レンズ中央断面の測線に沿って、既存の地下水観測孔において地下水の電気伝導度測定を行うとともに、測線に沿って電磁探査を行ない、塩淡境界深度を推定した。
- ローラ地区の淡水レンズは、1985年のUSGS(アメリカ地質調査所)の調査によると、レンズ状の形態をとっていた(図2)。その後、1998年の干魃後の地下水観測によって塩淡境界の部分上昇(アップコーニング)が確認された(図3)。干魃期間(1~4月)中の降水量は71.7mm、干天最大連続日数は95日間と極端に少なかった。干魃期間中の住民の水源は、海水淡水化装置から得られる水と、ローラ地区の地下水であった。この取水によって取水施設周辺の深部よりアップコーニングが生じた。
- 淡水レンズ断面形状はローラ地区の両サイドで厚く、中央部にアップコーニングが見られ、2009年の形状は1998年とほぼ同様である(図4)。
- 現地気象観測データ等を活用し過去4年(2006~2009年)間の年平均降水量2,900mm、リナカー式による蒸発散量1,260mm/年、平均取水量62,000トン/年及び地表流出を0と仮定した水収支算定結果から、地下水涵養量として年平均約340万トンの降雨浸透水がある。電磁探査結果から約186万トンと概定された淡水レンズ貯留量の約1.8倍の地下水が年平均で供給されたにも拘わらず、1998年に観測されたアップコーニングは、2009年も同様に観測された。淡水レンズの塩水化はその復元が難しいとされているが、多量の降水量にも関わらず、一旦塩水化した淡水レンズが復元しないことを確認した。
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成果の活用面・留意点 |
- アップコーニングの継続状況はマーシャル政府関係者に会議等の場で提供され、淡水レンズの保全の重要性が強く認識された。今後、塩水化を引き起こさない地下水の持続的な利用のためには、地下水流動状況をモデル化し取水可能量を算定した上での安定的な取水方法の確立、及びマーシャル政府による地下水の監視体制等の適切な管理体制の構築が必要である。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
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