タイトル | 沖縄島ヤンバル地域の森の利用と生物多様性 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
佐藤 大樹 後藤 秀章 小高 信彦 末吉 昌宏 野宮 治人 田内 裕之 杉村 乾 根田 仁 阿部 眞 長谷川 元洋 服部 力 齋藤 和彦 山田 文雄 |
発行年度 | 2010 |
要約 | 沖縄島北部「ヤンバル」地域において、原生的な森林の調査と、生物多様性に配慮した施業について調べました。 |
背景・ねらい | 沖縄島の北部地域ヤンバル(山原)は、絶滅が心配されているヤンバルクイナ、ノグチゲラ、オキナワトゲネズミなど多くの固有生物が生息し、世界自然遺産登録の候補にあげられている生物多様性の高い地域です。一方、この地域は限られた面積の中で、琉球王国の時代から継続して林業の中心地域のため、森林の利活用と生物多様性保全の両立が求められています。 そこで、従来の森林の利用の歴史と生物多様性との関係から、よりよい両立の在り方を探りました。 |
成果の内容・特徴 | 原生的な森林を確定するヤンバルの森林の大部分は人間が林業を行い、利用してきた二次林です。残された原生的な森林は、保全のためのコアエリアになります。ヤンバルの生物多様性の保全は中心となるコアエリアの保全と、その周辺での生物多様性に配慮した森林利用によって、住民の経済活動と生物多様性保全の調和を図ることが必要です。現地の聞き取り調査と1944~2006年までの間に撮影された8時期の航空写真を解析しヤンバルの森の変遷をたどりました。戦後、建築材や薪炭材として利用するため、海辺の集落から山地方面に向かって伐採を拡大していったことが明らかになりました。しかし、中央の山地にはわずかながら、原生的な森林が残されており、その正確な分布を示すことができました(図1)。そこでは、近年の報告がなく絶滅が心配されていた、ヤンバルの固有種オキナワトゲネズミTokudaia muenninki(天然記念物、絶滅危惧1A類(CR))(写真1)が、2008年と2009年に合計24頭が捕獲され、30年ぶりに生息を確認できました。しかし、その生息地の面積は原生的な森林の中でも極めて狭い範囲でした。このような希少種の存在は世界自然遺産にふさわしい価値の証明につながるでしょう。 よりよい施業へ林業は森林を利用するのですから、どのような林業であっても生物多様性に影響は生じます。しかし、生物多様性の保全においては、林分単位で影響があってもそれだけでは問題ではなく、地域全体として計画的な森林利用を行い、様々な生息地を供給することによりその影響を緩和し、多様性を保全するというのが持続可能な森林管理の考え方です。そのためにも、これまでの利用のあり方を改善する方法を検討しました。沖縄島では、有用な樹種を育てるために、天然林から不要な樹木を間引く森林管理が広く行われています。これによって、間引かれた倒木が大量に発生し、背の高い木ばかりが多い森林になります(図2a,b)。このため、倒木をえさにするカミキリムシ類の多様性は一時的に非常に増加し、年の経過と共に低下しました(図3)。また、リュウキュウキビタキなど森の中間の高さを利用する鳥類は、観察されなくなりました。さらに、次世代の樹木がほとんど育っていませんでした。これらの影響は林分単位にとどまる限り重大な影響ではありませんが、改善できる余地があります。すなわち、林業的にも次世代を担う若い樹木を残すというわずかな工夫で(図2c)、多様性を保持しつつ森林利用を行うことが可能と考えられます。 世界自然遺産登録においては、住民との合意形成が重要であり、地域の経済活動を排除するような保全はありえません。林業を含んだ森林利用と生物多様性の保全との高いレベルでの両立が必要です。 本研究は環境省地球環境保全等試験研究費による「沖縄ヤンバルの森林の生物多様性に及ぼす人為の影響の評価とその緩和手法の開発」およびWWFジャパン受託研究費「沖縄本島産希少哺乳類の生存と分布の確認調査」による成果です。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
図表4 | ![]() |
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