タイトル | 森林生態系が社会にもたらす様々なサービスの評価に関する研究 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
杉村 乾 田中 浩 牧野 俊一 岡部 貴美子 滝 久智 松浦 俊也 吉村 真由美 柴田 銃江 前藤 薫 吉田 謙太郎 |
発行年度 | 2010 |
要約 | 広葉樹林には生物多様性が社会に大きな恩恵をもたらす昆虫類が多く、山菜やキノコの採取もさかんです。また、森林資源に依存する地域住民ほど、森林保護よりも利用を重視していることがわかりました。 |
背景・ねらい | 動植物を食料として利用する、レクリエーションを楽しむ、あるいは農作物の受粉を助けるなど、多様な生物が人間社会にもたらす恵みは生態系サービスと呼ばれています。一方、里山として利用され、親しまれてきた景観は、薪、炭、肥料、家畜の餌の生産など、かつての役割をほぼ終えたことにより、その姿も変わってきました。その間、人工林が拡大する一方で伐採量が減少していますが、それらの変化が生態系サービスに与える影響は明らかにされていません。そこで、この研究では、森林の変化によってどのように生態系サービスが変わるのか、様々なタイプの森林の生物相、人の利用、価値付けなどを調べることによって明らかにしました。 |
成果の内容・特徴 | 生態系サービスを支える昆虫茨城県北部での調査によれば、花粉を運ぶ昆虫(送粉昆虫)は様々でしたが、中でもハナバチ類の種数が最も多く、送粉の働きはその種数で測るのが適当であると考えられました。その種数はおおむねスギ林に比べて広葉樹林の方が多かったほか、伐採後に多いという傾向も認められました(図1)。また、茨城県北部においてソバの花を訪れる昆虫の個体数(図2)、ソバが実を結ぶ確率(結実率)、ソバ畑周囲の森林や草地の面積との関係を調べました。花を訪れる昆虫には森林を主な生息地とするものが多く、なかでもニホンミツバチの数は畑周囲の森林面積、ミツバチ以外のハナバチの数は周囲の森林と草地を合わせた面積の増大とともに増加し、ソバの結実率もこれらのハチの数が増えるにしたがって大きくなりました(写真1)。これらのことから、伐採後の広葉樹林に多く見られるハナバチ類はソバの生産に大きな貢献をしていることがわかりました。 山菜・キノコ採りなどの供給サービス森林面積が町全体の約90%を占める福島県只見町において、山に自生する山菜とキノコについて、何をどこに採りに行くかを調べるために、GPS(位置を測る器械)を地元の人達に装着し、種類と量も記録してもらいました(図3)。その結果、山菜は沢沿いで(写真2)、キノコは老齢の広葉樹林で多く採られていました。このことから、山菜やキノコの供給源としての沢沿いの植生や老齢林を保護することの重要性がわかりました。森林の価値人工林面積が小さく、天然広葉樹林の利用がさかんな只見町の人々と全国の一般的な人々の間の森林に対する価値意識の違いを比較するために森林の価値を金銭評価しました。その結果、利用が許されない保護林については両者でほとんど差がなかったのに対し、それ以外の森林については、只見町では全国に比べて約4倍の高さとなりました。このことから、地域住民の森林資源利用の依存状況によって森林の価値意識が大きく異なることがわかりました。森林の変化が個々の生態系サービスに与える影響を定量的に評価した結果、さまざまなタイプの森林を維持するとともに、森林資源利用に対する住民意識を尊重した森林管理が重要であると言えます。 本研究は、環境省地球環境研究総合推進費「里山イニシアティブに資する森林生態系サービスの総合評価手法に関する研究」による成果です。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
図表6 | |
図表7 | |
カテゴリ | 肥料 くり GPS 受粉 そば ミツバチ |