タイトル | オゾン耐性遺伝子組換えポプラは耐乾燥性や耐塩性を保持する |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
毛利 武 古川原 聡 篠原 健司 |
発行年度 | 2010 |
要約 | 本研究では、大気汚染で問題とされる高濃度のオゾンに耐性を示す遺伝子組換えポプラを作出しました。また、この組換えポプラが耐乾燥性や耐塩性などの他の環境ストレス耐性を保持することを明らかにしました。 |
背景・ねらい | 温暖化など地球環境の悪化に伴い、世界の荒漠地(乾燥地や耕作放棄地など)の面積は年々増加し、陸地の約30%に達しています。荒漠地の緑化には、高環境ストレス耐性を保持したスーパー樹木の開発が期待されています。 本研究では、環境保全に貢献するスーパー樹木の開発を目指して、大気汚染で問題とされる高濃度のオゾンに耐性を示す遺伝子組換えポプラを作出しました。また、この組換えポプラが耐乾燥性や耐塩性などの他の環境ストレス耐性を保持することを明らかにしました。ここで開発した遺伝子組換え技術は、種々の環境ストレスに対応可能なスーパー樹木の開発に役立ちます。 |
成果の内容・特徴 | オゾン耐性遺伝子組換えポプラの作出硫黄酸化物やオゾンによる大気汚染は深刻な社会問題です。植物は気孔から大気汚染ガスを取り込み、解毒することができますが、濃度が高い場合には植物自身に傷害が生じ、落葉したり、枯死したりします。この傷害は植物ホルモンのエチレンの合成により起きます。そこで、エチレン合成酵素遺伝子を発現抑制して、エチレン合成を阻害した遺伝子組換えポプラを作出しました(図1)。この組換えポプラはオゾン耐性を示し、高濃度のオゾンを暴露したところ、オゾン暴露による葉の傷害は生じませんでした。反対に、エチレン合成を促進する組換えポプラを作出したところ、こちらはオゾン感受性を示し、低いオゾン濃度でも葉の傷害が観察できました。これらの技術を応用することで、大気汚染に強い緑化木や大気汚染に敏感な環境指標樹木の開発が期待できます。耐乾燥性と耐塩性の評価遺伝子組換え技術により特定の環境ストレスに対する耐性を向上させたとしても、それだけでは組換え樹木の有用性を議論することはできません。なぜなら、遺伝子組換えにより他の環境ストレス耐性にも影響を及ぼす可能性が生じるからです。そこで、オゾン耐性組換えポプラの乾燥ストレスと塩ストレスに対する応答を解析しました。野生型ポプラへの水供給を停止し乾燥ストレスを与えると、葉はしおれて褐変化し、徐々に枯死に至りますが、組換えポプラでは葉の傷害の発生が抑えられました(図2)。また、根から大量の塩化ナトリウムを吸収させ高塩ストレスを与えた場合にも、野生型ポプラの葉はしおれて褐変化しますが、組換えポプラでは葉の傷害の発生が抑えられました(図3)。どちらの環境ストレスも野生型ポプラのエチレン合成を誘導しましたが、オゾン耐性組換えポプラではエチレン合成は低く阻害されたままでした。 以上のことから、環境ストレスによる葉の傷害発生過程にエチレン合成が深く関与し、エチレン合成を抑制することで環境ストレス耐性を獲得したと説明できます。また、エチレン合成を抑制するために適用した遺伝子組換え技術は、オゾン耐性だけではなく、耐乾燥性や耐塩性を高める方法としても有効であることが明らかとなり、種々の環境ストレスに対応可能なスーパー樹木の開発に役立ちます。 本研究は、森林総合研究所交付金プロジェクト「環境保全に貢献するスーパー樹木の創出に向けた基盤技術開発」の成果です。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
カテゴリ | 乾燥 |