スギ花成制御遺伝子の単離と機能解析

タイトル スギ花成制御遺伝子の単離と機能解析
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 二村 典宏
片畑 伸一郎
篠原 健司
発行年度 2010
要約 スギの花形成のメカニズムを明らかにするため、花の形成に関連することが予想される遺伝子群を単離し、それぞれの特性について解析しました。その結果、スギの花形成を制御する2つの遺伝子を特定しました。
背景・ねらい 近年、わが国ではスギ花粉症患者が急増し、深刻な社会問題となっています。スギ花粉症対策の一つとして、スギの雄花形成に関係する遺伝子の働きを制御した遺伝子組換えスギの開発が進められています。スギの花粉発生を抑制する遺伝子組換え技術を開発するためには、どのような仕組みでスギの花は形成されるのかを理解する必要があります。
本研究では、スギの花の形成(以後、花成とします)に関連する遺伝子群を単離し、それらの遺伝子の役割について調べました。その結果、スギの花成を制御している2つの遺伝子を特定することができました。
成果の内容・特徴

スギの花成に関わる候補遺伝子の単離

モデル実験植物であるシロイヌナズナでは、花成メカニズムの解明が進んでいます。一方、スギなどの裸子植物では花成に関わる遺伝子の存在やその役割についてほとんど分かっていません。シロイヌナズナ等では、花成をはじめとする様々な発達過程に関わる遺伝子として、MADS-box遺伝子と呼ばれる遺伝子グループの存在が知られています。そこで、これらの遺伝子とよく似た構造を持つ遺伝子について10,463種類のスギ雄花完全長cDNAを探索した結果、12個のスギMADS-box遺伝子を単離しました。
単離したスギMADS-box遺伝子が花成制御に関わるかを短期間で検証するため、これらのスギ遺伝子を過剰発現させた遺伝子組換えシロイヌナズナを作出しました。その結果、シロイヌナズナの花成を促進するように働くスギ遺伝子が2種類あることを明らかにしました(図1)。系統解析という手法によりこれらの遺伝子を分類したところ、一つはSOC1のグループに属する遺伝子、もう一つはAP1/SEPのグループに属する遺伝子であることから、それぞれCjSOC1遺伝子とCjAP1/SEP遺伝子と名付けました(図2)。

スギの花成に関わる遺伝子の特徴

次に、この2種類の遺伝子がスギのどの器官で働いているのかを調べました(図3)。CjSOC1遺伝子は、花粉以外の全ての器官で発現していました。一方、CjAP1/SEP遺伝子は、針葉でもわずかに発現していましたが、主に花で発現していることが分かりました。さらに、この2種類の遺伝子がスギの花成に及ぼす影響について調べました。スギは通常、種を播いてから開花するまで10年~20年程度かかるといわれていますが、ジベレリンという植物ホルモンを散布すると苗木でも開花させることができます。6年生のスギ苗木にジベレリンによる花成誘導をおこない、その後の遺伝子発現の経時変化を調べた結果、CjSOC1遺伝子の発現はジベレリン処理後1週間で上昇するのに対し、CjAP1/SEP遺伝子の発現は雄花が肉眼で観察される頃に上昇していました。以上の結果から、2種類の遺伝子が役割を分担してスギの花成制御に関わっていると考えています。
本研究で得られた成果は、スギ雄花形成の制御による花粉発生抑制技術の開発に役立つと考えられます。また、遺伝子組換え樹木を野外に植える際に、組換え体からの花粉飛散による遺伝子汚染を防止する技術開発にも役立つと考えられます。

本研究は、林野庁事業「遺伝子組換えによる花粉発生制御技術の開発事業」による成果です。
成果の一部はFutamura,Nほか(2008) BMC Genomics 9:383をご覧ください。
図表1 235203-1.png
図表2 235203-2.png
図表3 235203-3.png
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