貴重なヒノキ天然林の遺伝的特徴を評価する

タイトル 貴重なヒノキ天然林の遺伝的特徴を評価する
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 松本 麻子
津村 義彦
谷 尚樹
内田 煌二
発行年度 2010
要約 ヒノキの森林面積のうち天然林はごくわずかです。分布範囲全体を網羅するように北限のいわきから南限の屋久島まで、25カ所の天然林の遺伝的な特徴を明らかにしました。
背景・ねらい ヒノキの森林面積は針葉樹ではスギに続いて広く、資源として十分に蓄積されていると考えられがちです。しかし、その内訳は人工林が大半で、天然林は保護林などとしてごくわずかの面積しか残っていません。ヒノキ天然林は、近年になって伐採の制限などで保護されるようになるまで、強度な伐採が行われてきました。そして現在では、森林の分断化や個体数の減少が進み、天然林は貴重な林となっています。この研究の目的は、ヒノキ天然林の遺伝的な特徴を評価して理解を深め、その保全や将来の遺伝子資源活用のための情報を得ることです。
成果の内容・特徴

遺伝的多様性の特徴

マイクロサテライトマーカー13座を用いて、ヒノキ天然林の分布域(北限の福島県いわきから南限の鹿児島県屋久島まで)から選んだ25ヶ所の森林の解析を行いました(図1)。マイクロサテライトマーカーは核DNAに存在する多様性に富むDNAマーカーとして、遺伝的な情報の把握に役立つことが期待されるDNAマーカーです。解析の結果、各々の天然林の間の遺伝的な違い(遺伝的分化)は小さく、ヒノキ天然林の全体からみて4.0%と低いものでした。各々の天然林が遺伝的にどの程度多様性に富んでいるかを調査したところ、分布域の北限のいわきや南限に近い小林で遺伝的多様性が低下していることが分かりました。この結果は、天然林の分断化や過開発が影響していることが考えられます。一方、天然林が広く残っている中部地方では、遺伝的多様性も高い状態で保持されていました。

南北で異なる遺伝要素と適応的な遺伝子候補の検出

ヒノキ天然林は地域間の遺伝的分化の程度は低かったものの、遺伝的特徴が南北で異なることが明らかになりました(図2)。ヒノキ天然林は4タイプの遺伝要素から成り立っていて、北限のいわき天然林や南限の屋久島天然林は、他の天然林と全く異なる遺伝的特徴を示しました。それ以外の天然林は、複数タイプの遺伝要素が混合しており、割合が徐々に変化しました。また、マイクロサテライトマーカーのCos2619遺伝子座は、自然選択に対して中立な状態から予想される以上に天然林毎の遺伝子頻度が大きく異なっていることがわかり、適応的な遺伝子の候補になり得ると考えられます。

資源の保全に向けて

これらの研究結果から、分布域の端および端に近い天然林は、遺伝的多様性が低下していること、および他の地域の天然林と遺伝要素がかなり異なることなどから、今以上に個体数が減少しないように保全する必要があることが分かります。また、個体数が多く多様性が保持されている中部の天然林も、多様な遺伝資源を確保する上で保全の意義が高いといえます。

本研究は「予算区分:科学研究費補助金、課題名:希少な森林となっている主要針葉樹天然林の保全遺伝学的研究」による成果です。
図表1 235204-1.png
図表2 235204-2.png
カテゴリ 遺伝資源 シカ DNAマーカー

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