森林動物の遺伝的交流を明らかにする

タイトル 森林動物の遺伝的交流を明らかにする
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 石橋 靖幸
発行年度 2010
要約 河川に住む魚類を対象に開発された遺伝的交流の大きさを推定する方法が、森林性の小型哺乳類でも利用できることを明らかにしました。
背景・ねらい 開発による森林の縮小・分断化が世界各地で進んでいます。森林は陸生の野生動物の主要な生息場所です。森林の縮小・分断化は、遺伝子の交流を妨げるため、やがて遺伝的な劣化により野生動物の地域集団を絶滅に導く可能性があります。最近、河川に住む魚類を対象に遺伝的交流の大きさを推定する方法が開発されました。本研究の目的は、この方法を移動能力の低い小型哺乳類に適用し、解析方法としての有効性を評価するとともに、森林の縮小・分断化が小型哺乳類の遺伝的交流にどのように影響するのか実態を明らかにすることです。
成果の内容・特徴

エゾヤチネズミ

森林に住む小型哺乳類の代表としてエゾヤチネズミ(写真1)を研究対象に選びました。北海道全域のササやぶに生息するこの種は、生息密度も高く、短期間の調査でも多くのサンプルを容易に得ることができるため、研究の目的にとても適した動物です。

遺伝的多様性は低いのか

十勝平野南部の畑作地帯に点在する孤立林(写真2)に生息するエゾヤチネズミを対象に、(1)両親から子供へ遺伝する常染色体のDNA、(2)母親から子供へ遺伝するミトコンドリアのDNA、(3)父親から息子にオス経由でのみ遺伝するY染色体のDNAの3種類の遺伝マーカーについて多様性を調べました。遺伝マーカーの多様性は高く、生息場所の大きさ(林の面積)とは関係のないことがわかりました(図1)。

孤立しているのか

魚類を対象に開発されたDPR法(Decomposed Pairwise Regression analysis)と呼ばれる方法を適用したところ、いくつかの孤立林の集団で孤立化の影響が見られましたが、ほとんどの集団の間には遺伝的な交流があり、孤立していないことがわかりました(図2)。エゾヤチネズミは畑を通して移動しているようです。
エゾヤチネズミのオスは、メスと比べて生まれた場所から離れたところに移動した後に繁殖する性質があります。これまで、森林の縮小・分断化が進んだ地域では、もっぱらオス経由で遺伝的交流が行われていると考えられてきました。しかし、調査した地域では孤立林同士が比較的近接していたためなのか、予想していた以上にメスが孤立林集団の遺伝的多様性の保持に貢献していました。

この研究からいえること

生息地が縮小・分断化されていても、それぞれの生息地の間を移動することができれば、遺伝的な多様性は低下せず、地域集団の存続性が確保されることが確認できました。
また、DPR法は魚類以外の野生動物においても生息環境の縮小・分断化の状態を評価する方法として有用であることがわかりました。この方法は、孤立・小集団化する希少種の保全計画を立てる際に利用できます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金「森林の縮小・分断化が小型哺乳類個体群の分布と遺伝的多様性に及ぼす影響の解明」(No.18380096)による成果です。
図表1 235209-1.png
図表2 235209-2.png
図表3 235209-3.png
図表4 235209-4.png
カテゴリ 繁殖性改善

こんにちは!お手伝いします。

メッセージを送信する

こんにちは!お手伝いします。

リサちゃんに問い合わせる
S