生物の種を超えた遺伝子の転移 -マツノマダラカミキリの常染色体上に寄生細菌ボルバキアの遺伝子を発見-

タイトル 生物の種を超えた遺伝子の転移 -マツノマダラカミキリの常染色体上に寄生細菌ボルバキアの遺伝子を発見-
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 相川 拓也
安佛 尚志
二河 成男
菊地 泰生
柴田 洋
深津 武馬
発行年度 2010
要約 マツノマダラカミキリの常染色体上に昆虫類の寄生細菌として知られるボルバキアの遺伝子が大規模に転移していること、すなわち生物の種の壁を超えて遺伝子が水平転移していることを突き止めました。
背景・ねらい ボルバキアは主に昆虫類の細胞内に寄生する細菌で宿主昆虫に生殖異常をもたらします。その異常にはいくつかタイプがあり、子孫が全くできなくなるタイプや、子孫がすべて雌になるタイプなどが知られています。これまでの研究により、マツ材線虫病の媒介昆虫であるマツノマダラカミキリ(写真1)の体内からもボルバキアの遺伝子が検出されていたことから、マツノマダラカミキリにもボルバキアが感染していることが示唆されていました。本研究は、ボルバキアによるマツノマダラカミキリへの生殖攪乱の影響を解析し、ボルバキアがマツ材線虫病に対する防除素材として利用可能か否かを明らかにすることを目的に進めました。
成果の内容・特徴

メンデルの法則にしたがって遺伝するボルバキア遺伝子

昆虫の細胞内に寄生しているボルバキアは雌から子孫へと感染するのみで雄から子孫へは決して感染しません。ボルバキアの遺伝子が検出されるマツノマダラカミキリ系統(感染系統)と検出されない系統(非感染系統)を用いて3世代にわたる交配実験を行ったところ、非感染雄×感染雌の組み合わせでは(図1:A)、他の昆虫で見られるボルバキアの遺伝様式と同様に、母親(G1)から次世代(G2)へ完全にボルバキアの遺伝子が移行しましたが、感染雄×非感染雌の組み合わせでも(図1:B)得られた子孫はすべてボルバキアの遺伝子を持っていました(図1:G2)。すなわち、細胞内寄生細菌ではあり得ないはずの父親から子孫への移行が起こったのです。さらに、ボルバキアの遺伝子が検出されたG2世代の雌と非感染系統の雄を交配させたところ、今度は感染個体と非感染個体が約1:1の比率で出現しました(図1:G3)。このボルバキアの遺伝子はまるでマツノマダラカミキリの常染色体と連鎖しているかのように、生物の教科書に載っているメンデルの法則にしたがって遺伝したのです。

7番目の常染色体上に存在したボルバキア遺伝子

本当にボルバキアの遺伝子がマツノマダラカミキリの常染色体上に存在するかどうかを視覚的に確かめたところ、ボルバキアの遺伝子はマツノマダラカミキリの10本の染色体のうち7番目の常染色体上に存在することが確認できました(写真2)。このことは、ボルバキアの遺伝子断片が何らかのプロセスによってボルバキアからマツノマダラカミキリの常染色体へ転移した(水平転移した)ことを示しています。

大規模に転移していたボルバキア遺伝子

ボルバキアの遺伝子がどれくらいマツノマダラカミキリに転移しているかを調べてみたところ、約14%のボルバキアの遺伝子がマツノマダラカミキリに転移していることが明らかとなりました(図2)。昆虫などの高等生物において、大規模な遺伝子の水平転移を具体的に証明した例は世界的に見ても極めて少ないことから、本成果は高等生物の機能や進化に及ぼす遺伝子水平転移の影響を考える上では大変貴重な発見と言えます。

ボルバキア遺伝子の痕跡の意味

本研究により、細菌としてのボルバキアがマツノマダラカミキリに感染しているのではなく、ボルバキアの一部の遺伝子がマツノマダラカミキリの染色体上に水平転移しているという予想外の事実が明らかとなり、防除素材利用の手がかりは得られませんでしたが、この“遺伝子の痕跡”は、マツノマダラカミキリが過去にボルバキアによる感染を受けていたことを物語っています。つまり、まだ日本のどこかにボルバキアに感染したマツノマダラカミキリ個体群が存在する可能性があるのです。そのような個体群を発見し、ボルバキアのマツノマダラカミキリに対する影響を明らかにしていくことで、今後、ボルバキアをマツ材線虫病に対して利用するための道が開けてくると考えています。

本研究は科学研究費補助金(19780126)による成果です。
図表1 235210-1.png
図表2 235210-2.png
図表3 235210-3.png
図表4 235210-4.png
カテゴリ 病害虫 防除

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