クマの大量出没の原因を明らかにして、人身被害を防ぐ

タイトル クマの大量出没の原因を明らかにして、人身被害を防ぐ
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 大井 徹
中下 留美子
岡 輝樹
大西 尚樹
高橋 裕史
正木 隆
阿部 真
宮本 麻子
佐野 真琴
坪田 敏男
山崎 晃司
発行年度 2011
要約 クマの大量出没はドングリ類の不作のせいでクマが行動圏を低標高へ大きく広げることが主な原因であることがわかりました。さらに、クマを人里に引きつけ、人里に侵入しやすくしている人間側の原因も関係していました。
背景・ねらい たくさんのツキノワグマが人里に出没し、人身被害が頻発する年があります。私たちは、出没の原因と考えられるドングリ類の不作に伴うクマの行動の変化と、出没場所の特徴を明らかにしました。まず、ブナ、ミズナラなど比較的高い標高で結実するドングリ類が不作の年には、クマの行動圏が低標高へと大きく広がり、出没に結びつくことが明らかになりました。また、クマは、人里で放置されている食物に誘い込まれ、管理不足で藪の茂った河川敷等を利用して人里に侵入していることも明らかになりました。これらの結果に基づいて、クマの出没を予測して、予防的対策により被害を防ぐためのマニュアルを刊行しました。
成果の内容・特徴

繰り返す大量出没

たくさんのツキノワグマが人里に出没し、人身被害が頻発する年があります。最近では、2004年、2006年、2010年に大量出没が発生し、その原因は何か、被害対策はないのかなど繰り返し社会問題になりました。この現象は、クマが越冬準備のため大量の食物を必要とする晩夏から秋にかけて起きます。また、東北地方では、クマの食料であるブナの結実変動が出没と強い関係を持つことが明らかになっています。このような状況証拠から、クマが脂肪蓄積をして越冬の準備をする秋に、主食となるブナやミズナラの実などドングリ類が不作になることが出没の原因だと考えられます。しかし、結実不良にともなってクマの行動がどう変化して、人里に出没するようになるのかは不明でした。私たちは、食物変動に伴うクマの行動の変化、出没場所の特徴を明らかにした上で、被害対策を検討しました。

クマの行動の変化

まず、野生のクマの行動とナラ類などクマの主要食物の結実状況を調べました。その結果、秋のクマは、常にドングリ類が実っている地域を集中的に利用すること、不作年には行動圏が低標高へと大きく広がることが明らかになりました(図1)。ミズナラの豊作年には、高標高ほど果実の成熟が遅くなるので、クマはその実りを追って活動標高を上げていきますが、不作年には標高を上げても実がないので、結実の年変動が少ないクリやコナラの実が成っている低標高へと移動すると考えられました。

人里の食物が呼びよせる

一方、クマの体毛の安定同位体比*を測定して春から秋までの食性を推定した結果、大量出没の発生季節である秋以前から、秋の実りとは無関係に人里の食物に依存していたクマがいることが明らかになりました(図2)。このようなクマが増加するとドングリ類の結実状況とは無関係に、恒常的に出没することになります。また、出没地域の景観の特徴を分析した結果、手入れがされず藪の茂った河川敷等がクマの移動経路や潜み場所となっていることがわかりました(図3)。これらの結果から、カキ、クリ、残飯、家畜飼料、農作物など人里でクマを引きつけているものをきちんと管理すること、また人里および周辺の藪の手入れをすることが出没防止に重要であると考えられました。

出没予測

これらの結果等に基づいて、被害を予防することを目的に、出没年と出没危険地域を予測するためのマニュアルを刊行しました(図4)。

本研究は、環境省公害防止等試験研究費によって実施した研究プロジェクト「ツキノワグマの出没メカニズムの解明と出没予測手法の開発」の成果です。

*安定同位体比
通常の原子より中性子が多く、その分重く放射能を持たない原子を安定同位体という。そして、ある物質の中での通常の原子に対する安定同位体の存在比を安定同位体比という。安定同位体比は生物の種類ごとにほぼ決まっており、ある動物の体組織の安定同位体比は、その動物の食物の安定同位体比を反映している。
図表1 235222-1.png
図表2 235222-2.png
図表3 235222-3.png
図表4 235222-4.png
カテゴリ かき くり

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