タイトル | 森林・海・農地、人が最もリラックスする環境は? |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
香川 隆英 高山 範理 大平 辰郎 松井 直之 森川 岳 恒次 祐子 宮崎 良文 李 宙営 |
発行年度 | 2011 |
要約 | これまでの研究で、森林浴がストレスを軽減する効果があることは分かってきました。本研究から、海や農地など森林以外の自然環境と比較して、森林浴はより高いセラピー効果があることがわかりました。 |
背景・ねらい | これまで、森林浴が都市住民のストレスホルモンを低下さたり、免疫能 ( ナチュラルキラー細胞活性 ) を高めるなど、私たちの健康増進に役立つことを明らかにしてきました。しかしながら、セラピー効果が森林だけに特徴的なものかどうかは分かりませんでした。そこで、森林と農地および海岸という、それぞれ異なる自然環境下での人体への生理効果の比較実験を行った結果、森林が海岸や農地に比べ、よりセラピー効果が高いことが分かりました。 これらの結果は、全国で44か所ある森林セラピー基地に認定された市町村を中心に、地域住民の健康増進のために森林を活用することで医療費の増加を抑えるとともに、また都市住民がストレス軽減のため森林地域を観光で訪問する機会を増やし、地域の活性化に貢献できるでしょう。 |
成果の内容・特徴 | 背景と目的現代の都市で生活する人々は、高度に発達した人工環境下で長時間過ごしており、テクノストレス*など様々なストレスが私たちの心身を蝕んできています。そのため、高血圧や糖尿病など生活習慣病や気分変調症などの精神疾患、さらには免疫能の低下によって癌に罹り易くなっています。一方、山村では高齢化が進み地域の活力の減退が問題となっています。こうした現代のストレスを起因とする疾病の予防や、山村地域の活性化に貢献するため森林セラピーの研究を進めています。これまで、森林と都市環境を比較して、森林の方が人間の血圧の低下、ストレスホルモンの減少、そして NK(ナチュラルキラー) 活性などの免疫能の向上など、私たちの健康増進に役立つ機能(セラピー効果)が高いことを明らかにしてきました。しかしながら、人工的な都市環境以外であれば、たとえば海でも農地でも森林と同様に、私たちをリラックスさせてくれる効果があるのではないかという疑問が残ります。そのため本研究では、森林と農地および海岸という、それぞれ異なる自然環境において、それぞれの環境が人体に与える生理効果の比較実験を行い、森林浴の効果を明らかにしました。 成果森林は津南町樽田のブナ林のセラピーロード、農地は津南町の河岸段丘の畑、海岸は柏崎市の浜辺を対象に(写真1)、20代の男子学生17名を被験者とした医学実験を行いました。その結果、散策前の脈拍数では、森林が農地・海岸よりも低く(図1)、拡張期血圧 (低いほうの血圧) では、散策後に農地や海岸では高くなりました。また、人がリラックスすると高まる副交感神経活動(HF)* が、森林で農地や海岸より高くなるなど(図2)、森林浴が人の神経活動を最もリラックスさせてくれることが分かります。一方、ストレスホルモンである唾液中コルチゾール濃度については、森林は海岸よりも濃度が低くセラピー効果が高いことが分ります。このように、様々な自然環境の中でも森林のセラピー効果が高いという本研究結果は、全国で44か所ある森林セラピー基地などの市町村だけでなく、地域住民が森林をさらに活用することにより将来の医療費の増加を抑えることが期待できます。一方、都市住民がストレス軽減のため観光で森林地域を訪問する機会が増加すると、地域の社会・経済の活性化にも貢献できるでしょう。 本研究は森林総合研究所交付金プロジェクト「異なる自然環境におけるセラピー効果の比較と身近な森林のセラピー効果に関する研究」の成果です。(医学実験は、森林総合研究所疫学研究倫理審査委員会の承認のもと実施されたものです) *テクノストレス パソコンやコンピュータゲーム、インターネットなどデジタル技術の過度の使用・依存等によるストレスが原因となり、心身に支障をきたすこと。 *副交感神経活動(HF) 主として夜間の就寝時に働く神経活動で、リラックスすると高まる。その結果、心拍がゆっくりになり、血管が拡がり血圧は低下する。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
カテゴリ | くり |