自然攪乱が北限のブナの分布を広げた

タイトル 自然攪乱が北限のブナの分布を広げた
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 松井 哲哉
倉本 惠生
並川 寛司
後藤 亮太
小林 誠
発行年度 2011
要約 自生最北限のブナ林がどのようにして成立したかを、地形情報・年輪解析・倒木片の樹種判別、過去のかく乱の歴史などから推定しました。
背景・ねらい 地球温暖化に伴い北海道の北限のブナへの影響が心配されています。自生するブナの北限は、北海道渡島半島の付け根にある黒松内周辺域です。ブナ分布前線である三之助沢で行った植生調査の結果や、年輪から測定した樹齢に基づいてこのブナ林の成立過程を推定しました。その結果、ブナは約200年前から調査地域に侵入を開始し、地すべりや台風などによる地形の変化や森林の破壊(自然かく乱)を絶好の機会として、徐々に分布を拡大してきたことがわかりました。したがって、現在孤立して点在する最前線のブナ林も、長い時間ののちには自然かく乱を経て、連続したブナ林となる可能性があります。
成果の内容・特徴

背景・目的

ブナの自生分布の北限が北海道渡島半島の黒松内周辺域にあることは古くから知られています。一方、地球温暖化による北限のブナ林への影響が心配されています。しかし、この北限のブナ林の正確な位置や規模、成立のメカニズムなどについてはよくわかっていませんでした。ブナは他の樹種に比べて開葉が早いため、開葉時期に撮影した空中写真から容易にブナ林の位置を知ることができます。そこで空中写真の判読と現地踏査を行い、分布最前線に点在するブナ林の場所と規模を明らかにしました。その一つである三之助沢上流部のブナ林(標高350~510m)は、60年前の文献記録(ブナは約50本)よりもはるかに大規模なブナ林であることがわかりました(図1)。そこで三之助沢ブナ林(仮称)がどのように成立したのか、その過程を解明することを目的として現地調査を実施しました。

過去のブナの分布拡大

調査区内には樹齢120年以上のブナは数が少なく、点在しており、最大樹齢でも200年程度でした。一方、樹齢80年~120年のブナは、地滑り跡と考えられる、斜面傾斜が変化して急になる場所(押出し域)を中心に分布していました(図2)。また、80年以下の若いブナは調査地全域に一様に分布しており、中でも60~70年程度のブナが最も多いこともわかりました(図3)。倒木の組織切片から樹種判別した結果、過去にはカバノキ類やナラ類が多かった森林が、徐々にブナの密度が高い森林に変化してきたことが明らかになりました。
現地の地形を見ると、過去に大規模な斜面崩壊(図1の青い実線内)や地すべりが起こったことがわかります(図2の押出し域)。また、1956年には、北海道に大規模な被害を起こしたことで有名な洞爺丸台風がこの地域の森林にも被害を与えたことが知られています。
これらのことから三之助沢では(1)ナラやカバノキを中心とする森に単木的にブナが侵入、(2)その後の地滑りや洞爺丸台風などによる森林へのかく乱を契機としてブナが徐々に増加、(3)現在のようなブナ林に変化してきた、と考えられます(図3)。

北限のブナ林の現在と将来

三之助沢ブナ林をはじめ、分布最前線のブナ林は2~4kmの間隔で互いに孤立しており、周囲にはブナを欠く落葉広葉樹林が広がっています。しかし今後は、長い時間をかけてこれらブナの孤立林との間の森林にもブナの種子を動物が運び込むことによってブナが侵入し、かく乱などを契機に本数を増やしながら、最終的には連続したブナ林へと変化していくのかもしれません。気暖変動のみがブナの分布を決めるわけではないことがわかりました。
この成果は、北限域におけるブナの生態の解明、北海道のブナ林保全計画づくりという観点から広く利用されると考えられます。

本研究は「予算区分:科研費、課題名:ブナ天然林北進最前線における分布拡大過程の解明(H21~23)」による成果です。

詳しくは:Namikawa, K., et al. (2010) Plant Ecology 207: 161-174.をご覧ください。
図表1 235245-1.png
図表2 235245-2.png
図表3 235245-3.png
カテゴリ シカ

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