トマトモザイクウイルスの増殖に必須な宿主タンパク質ARL8の同定

タイトル トマトモザイクウイルスの増殖に必須な宿主タンパク質ARL8の同定
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2007~2011
研究担当者 錦織雅樹
岡村英保
相宏宇
森正之
土肥浩二
内藤哲
飯哲夫
加藤悦子
石川雅之
発行年度 2011
要約 宿主タンパク質ARL8がトマトモザイクウイルス(ToMV)の複製タンパク質と結合していることを見いだした。ARL8遺伝子を破壊した植物体は正常に生育したが、接種したToMVの増殖は完全に抑制された。このタンパク質ARL8の溶液構造およびToMV複製タンパク質が活性化される際のARL8の役割を明らかにした。
キーワード 植物ウイルス、複製、宿主タンパク質、核磁気共鳴、溶液構造
背景・ねらい ウイルスは宿主のタンパク質合成系や他の代謝系を利用して増殖するため、宿主の営みを妨げずにウイルスの増殖のみを阻害することは難しく、作物のウイルス病を治療できる薬剤は知られていない。ToMVおよびその近縁ウイルス(トバモウイルスと総称)は、トマトをはじめ多くの作物に感染して収量や品質を低下させる。ウイルス粒子は非常に安定で、土壌中で長年活性を保ち、感染源となる。いくつかの作物ではトバモウイルスに対して強力かつ打破されにくい抵抗性遺伝子の存在が知られているが、そのような抵抗性遺伝子が見つかっていない作物もある。本研究では、トバモウイルス防除の新たな方策を開発する基盤の構築を目指して、ToMVの増殖に必要な宿主因子の同定を試みた。
成果の内容・特徴
  1. ToMV感染細胞抽出液から、ToMV複製タンパク質(ToMVの複製に必要な酵素活性を持つタンパク質)と共精製されるタンパク質を得た。部分アミノ酸配列を決定し、そのタンパク質がARFファミリーに属する低分子量GTP結合タンパク質ARL8であることを明らかにした。ARFファミリータンパク質は、細胞内の膜を介した物質輸送において重要な役割を担うことが知られている。
  2. 3つのARL8遺伝子を破壊したシロイヌナズナとタバコを作出した。これら変異株の植物体は正常に生育したが、ToMVあるいは近縁のトバモウイルスTMV-Cgを接種した際には、これらのウイルスの増殖は完全に阻害された(図1)。一方、ToMV とは別の属に分類されるキュウリモザイクウイルス(CMV)は当該変異株でも正常に増殖した(図1)。
  3. 宿主タンパク質TOM1はARL8と同様ToMVの増殖に必須である。ARL8、TOM1、ToMV複製タンパク質は互いに相互作用した。ToMV複製タンパク質はARL8およびTOM1と共発現してはじめてToMVの複製に必要な酵素活性を現した。これらの結果から、TOM1とARL8は複製タンパク質とともに複製複合体を形成し、複製タンパク質がウイルス複製のための酵素活性を獲得する過程で重要な役割を果たしていると考えられた(図2)。
  4. ARFファミリータンパク質はGTPを結合するかGDPを結合するかにより大きく立体構造を変えることにより分子スイッチとして機能する。我々は、ARL8のGTP結合型およびGDP結合型の溶液構造を、核磁気共鳴分光法により決定し、それらの間の構造変換機構を明らかにした(図3)。この構造変換はToMVの複製においても重要である可能性がある。
成果の活用面・留意点
  1. ARL8遺伝子の発現を抑制することにより、シロイヌナズナ、タバコ以外の植物にもトバモウイルスに対する抵抗性を付与できることが期待される。
  2. ARL8タンパク質の溶液構造およびその構造変換機構が明らかになった。今後、これらの情報をもとに、ARL8のGTP結合型-GDP結合型構造間の変換を阻害することにより、あるいは、複製タンパク質とARL8の相互作用を阻害することによりトバモウイルスの増殖を抑制する物質の開発を目指す。
図表1 235257-1.jpg
図表2 235257-2.jpg
図表3 235257-3.jpg
研究内容 http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h23/nias02308.htm
カテゴリ 病害虫 きゅうり 植物ウイルス たばこ 抵抗性 抵抗性遺伝子 トマト 防除 薬剤 輸送

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