森林観測ネットワークで気候変動の影響を探る -タワーを用いた二酸化炭素吸収量(CO2)の把握-

タイトル 森林観測ネットワークで気候変動の影響を探る -タワーを用いた二酸化炭素吸収量(CO2)の把握-
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 山野井 克己
溝口 康子
大谷 義一
北村 兼三
中井 裕一郎
安田 幸生
発行年度 2012
要約 観測マニュアルの作成を行い、機器やソフトウェアの標準化によりタワーを用いたCO2吸収量観測体制を充実させました。この長期タワー観測から、落葉広葉樹林の夏のCO2吸収量は常緑針葉樹林を大きく上回ることを明らかにしました。
背景・ねらい 森林総合研究所では、アジアにおける観測ネットワークであるアジアフラックスの一員として、農業環境技術研究所、産業技術総合研究所、国立環境研究所とともにタワーを用いたCO2吸収量のモニタリングを行っています。気候変動による森林への影響を解明するためには、このようなネットワークの観測精度を高める必要があります。そのため、観測機材やソフトウェアの標準化をすすめるとともに、可搬型観測システムによる精度検証を行っています。さらに、これまで蓄積してきたノウハウをとりまとめた観測マニュアルを作成しました。このタワー観測から、落葉広葉樹林は冬にCO2を放出するものの、夏のCO2吸収量は常緑針葉樹林を大きく上回ることを明らかにしました。
成果の内容・特徴

地球温暖化問題に取り組む地球観測推進の動き

地球温暖化問題に対し、CO2吸収量(フラックス)をはじめとする温室効果ガスの全球的な長期観測の重要性が、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書で指摘されています。
森林総合研究所は、地球全体のネットワークのうち、アジアフラックスネットワークの一員として、農業環境技術研究所、産業技術総合研究所、国立環境研究所とともに、国内外の11の森林や農地(図1)において、気候変動の影響を探るために、観測タワーを用いたCO2吸収量のモニタリング(図2)を行っています。

森林総合研究所フラックス観測ネットワーク

森林総合研究所では現在、落葉広葉樹林の札幌(北海道:シラカンバ・ミズナラ林)、安比(岩手県:ブナ林)、山城(京都府:コナラ林)と、常緑針葉樹林の富士吉田(山梨県:アカマツ林)、鹿北(熊本県:スギ・ヒノキ林)の5カ所で、観測を行っています。

観測体制の強化に向けて

アジアでのCO2吸収量をはじめとしたフラックス観測の充実のためには、日本のみならず、アジア全体での観測ネットワークの強化が重要です。すでに10年以上の観測の実績とノウハウの蓄積のある上述の3研究機関と合同で、中国、バングラデシュ、タイのアジア3カ国での観測態勢の整備を行い、継続してモニタリングできる体制を整えました。また、観測用機材、保存データ形式、解析プログラム等の標準化・共通化を進めるとともに、可搬型観測システムを用いた比較観測によるモニタリングサイトの観測精度検証を行い、観測精度維持に努めています。これら一連の作業で蓄積されてきたノウハウをもとに、実際の観測現場で役立つ「フラックス観測マニュアル」の出版(図3)を行いました。同マニュアルはウェブサイト上でも公開しています。

タワーフラックス観測の成果

これまで行ってきた観測から、日本の暖温帯に生育する常緑針葉樹林は、冬でも気温や日射量などの条件が整えば、CO2を吸収することがわかりました。一方、落葉広葉樹林は、葉をつけている春から秋にかけてCO2を吸収し、冬の葉を落としている時期はCO2を放出しますので、落葉広葉樹林は、CO2を吸収する期間が短くなります。しかし、夏には常緑針葉樹林よりも多くのCO2を吸収するため、1年間ではどちらも同じくらいのCO2を吸収していることがわかりました(図4)。
温暖で降水量の比較的多い日本の森林は、温帯モンスーン地域の代表的な森林です。温帯の様々なタイプの森林を含む森林総合研究所のフラックス観測サイトの研究成果は、世界の中でも数少ない貴重な情報です。森林総合研究所はデータベースを含めた情報発信を行っており、日本国内だけではなく広くアジア・欧米などの研究者によって、アジアの森林のCO2吸収量のより正確な評価のための炭素循環モデルやリモートセンシング技術の検証にも利用されています。

森林タイプによってCO2吸収量に影響を与える気象条件や、影響の大きさは異なります。世界的に見てもモンスーンアジアにおける森林のCO2吸収量の正確な評価は重要です。今後も、森林総合研究所はアジアフラックスの中でアジアのモンスーン気候帯での様々なタイプの森林に対する気候変動の影響を調査していきます。

研究資金と課題:環境省地球環境保全試験研究費「アジア陸域炭素循環観測のための長期生態系モニタリングとデータのネットワーク化促進に関する研究」
図表1 235337-1.jpg
図表2 235337-2.jpg
図表3 235337-3.jpg
図表4 235337-4.gif
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p30-31.pdf
カテゴリ 炭素循環 データベース モニタリング リモートセンシング

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