東日本大震災の津波による海岸林の被害と津波被害軽減機能

タイトル 東日本大震災の津波による海岸林の被害と津波被害軽減機能
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 坂本 知己
野口 宏典
発行年度 2012
要約 平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う津波による海岸林の被害実態と海岸林による津波被害軽減効果について、現地調査や数値シミュレーションによって明らかにし、海岸林の再生方法について提言しました。
背景・ねらい 平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う巨大な津波は、東日本太平洋岸の海岸林に甚大な被害をもたらしました。とくに、岩手県から福島県にかけての海岸林には、消滅したものも少なくありません。一方、海岸林が津波で流された船舶などの漂流物を捕捉する機能(漂流物捕捉機能)や、津波の波力を弱める機能(波力減殺機能)を発揮した実例も確認できました。また、樹木を使った実スケールの水路実験を行い、津波の力を弱める樹木の抵抗を求めて、数値シミュレーションを行いました。その結果、海岸林は、津波の流速、流量、波力の最大値を低下させ、到達時刻を遅らせる効果があることを確認しました。
成果の内容・特徴

とてつもなく大きな津波

平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う巨大な津波は、東日本の太平洋岸で多くの生命・財産を奪い、社会基盤を破壊しました。海岸林の被害も、これまでの記録にないほど広い範囲に及びました。岩手県から福島県にかけての海岸林被害はとくに甚大で、消滅した海岸林も少なくありません。海岸林の被害状況を把握し、今後の海岸林の再生を支援するため、現地調査と海岸林の効果に関する数値シミュレーションを行いました。

海岸林の被害状況

防潮堤を乗り越えた津波により、防潮堤の背後の地面は激しく掘り取られました(写真1)。海岸林の中には、破壊されたコンクリートブロックが入り込みました。海岸林の被害状況は、押し寄せた津波の規模や、地盤高などの地形条件、防潮堤の有無、海岸林の状態(樹高、植栽本数密度、根の分布状態)などにより異なっていました。比較的樹木が細い場合は、林全体がなぎ倒されたようになり、比較的太い樹木の場合は、幹が折れて根株だけが残る傾向が見られました(写真2、3)。一方、樹木の大きさに関わらず、根をつけたまま樹木が倒伏して流失する例がありました(写真4)。これは地下水位が高い場所で見られることが多く、根が地表付近で盤状になって地中深くに入っていなかったため、津波で簡単に押し倒されたものと考えられました。
今後、海岸林の再生にあたっては、地下水位の高い箇所では盛り土をして根が深くまで張るようにするとともに、幹を太く育てることが重要になります。

海岸林のはたらきと数値シミュレーション

海岸林は大きな被害を受けましたが、津波の被害を低減させる効果も確認されました。ひとつは漂流物捕捉機能で、津波で運ばれた船舶などの漂流物が住宅地に侵入し衝突するのを防ぎました(写真5)。さらに、海岸林は津波の勢いを弱め到達を遅らせる役割(波力減殺機能)を果たしたと考えられました。
波力減殺機能を確認するため、海岸林を通過する津波の様子を数値シミュレーションモデル(以下、モデル)で再現しました。実物の樹木を使った水路実験を行い(写真6)、水流に対する樹木の抵抗特性を求め、現地調査による海岸林の状態(本数密度、胸高直径、樹高、枝下高)を組み込んだモデルを開発しました。海岸林を津波が通過する様子をモデルで再現して、海岸林がある場合とない場合とを比較したところ、海岸林があることで津波の到達が遅れ、浸水深(地面から水面までの高さ)や流速も抑えられる様子を確認できました(図1)。
開発したモデルを用いて海岸林の幅や状態によって津波の被害がどの程度軽減できるかを推定し、林野庁が策定した海岸林の再生・復興計画に役立てました。

林野庁平成23年度震災復旧対策緊急調査(海岸防災林による津波被害軽減効果検討調査):現地調査は、森林総研東北支所、日本海岸林学会会員などの多大な協力を得て行いました。
図表1 235342-1.jpg
図表2 235342-2.jpg
図表3 235342-3.jpg
図表4 235342-4.jpg
図表5 235342-5.jpg
図表6 235342-6.gif
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p40-41.pdf
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