林産物としてのシカ肉を衛生的に管理する

タイトル 林産物としてのシカ肉を衛生的に管理する
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 松浦 友紀子
伊吾田 宏正
岡本 匡代
発行年度 2012
要約 野生動物であるシカの肉を安全安心に食べられるように、シカ食先進国である英国の手法を参考とし、シカに適した解体方法を明らかにしました。また肉の検査やその資格制度の日本への導入について北海道に提言しました。
背景・ねらい 日本中で個体数と分布を拡大しているニホンジカ。害獣として駆除するだけではなく、資源として利用しつつ管理することが重要です。ただし日本の場合、食肉として利用する場合に最も重要となる衛生管理の体制が整備されていません。そこで本研究では、シカ肉の流通が盛んな英国の事例を参考に、シカに適した内臓摘出方法の検討を行いました。その結果、海外で認められている野外での内臓摘出について、衛生的に行えることが明らかになりました。今後は家畜に準ずるのではなく、シカに適した解体処理方法の提示や肉の検査体制が必要であり、そのためには英国のように野獣肉を検査する資格制度の導入が必要だと考えられます。
成果の内容・特徴

日本のシカ肉流通の課題

日本では、野生動物であるシカが肉として管理され始めるのは、枝肉*になってからです。その前段階である、捕殺、内臓の摘出、皮をはぐ(はく皮)部分を管理する体制はありません。内臓摘出とはく皮については、マニュアルやガイドラインを作成している県もありますが、どれも家畜に準じたもので、野生動物には適用しにくい部分があります。それに対してシカ肉の流通が盛んな欧州では、野生動物も欧州連合(EU)の食品に関する規則の対象となり、またその規則は野生動物に特化したものになっています(図1)。そこで、2006年からEUの規則を取り入れている英国のシカ肉衛生管理について情報収集し、日本における野外処理方法について、ガイドラインを作成しました。

野外でも衛生的な内臓摘出は可能か

まず日本と英国の大きな違いとしてあげられるのが、内臓摘出を行う場所です。日本では、野外での内臓摘出は「衛生状態に不安がある」ことが一因となり認められていませんが、英国では「衛生的に処理するために」認められています。そこで、野外で内臓摘出した枝肉の衛生レベルを評価するために、野外で内臓摘出した枝肉と、解体処理場で内臓摘出した枝肉(日本で現在推奨されている方法)の肉の表面の汚染度を比較しました(図2)。その結果、汚染度の指標となる一般生菌数はどちらも低い値を示しました(図3)。大腸菌やその他の食中毒を引き起こす主な菌(サルモネラやカンピロバクターなど)も検出されませんでした。したがって、野外でも衛生的な内臓摘出が可能であることが示されました。ただし、今回の方法は英国のマニュアルを参考にし、できるだけ衛生的な処理を心がけた結果ですので、どのようなやり方でもよいわけではありません。野外での内臓摘出を日本でも可能にするためには、今回示したようなガイドラインに従って行う必要があります。

シカ肉の検査体制と資格制度の導入を提言

英国では、流通にまわすシカ肉は、野獣肉検査資格を持った人物(狩猟者や猟区管理人の場合が多い)により、食肉として適しているかを検査され、それを証明するタグをつけなくてはなりません(図4)。検査は捕獲前から始まるため、狩猟者の役割が重要です。今後は、野生獣肉を取り扱う技術者の資格制度の導入など、肉の検査体制の整備を図る上で、今回提言したガイドラインが利用されます。
英国のシカ肉衛生管理の詳細は、以下の論文をご覧ください。
松浦友紀子・伊吾田宏正(2012)英国の一次処理と資格制度.獣医畜産新報Vol.65No.6451-454

本研究は科学研究費補助金「林産物としてのエゾシカ肉の衛生管理手法を国際基準に合致させる」(No.22658045)による成果です。

*枝肉
臓器、皮、頭部、足を切除したあとの、骨格に筋肉が付いている状態のもの。
図表1 235344-1.gif
図表2 235344-2.jpg
図表3 235344-3.gif
図表4 235344-4.jpg
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p44-45.pdf
カテゴリ シカ

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