生物多様性の第二の危機を緩和する林業活動

タイトル 生物多様性の第二の危機を緩和する林業活動
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 山浦 悠一
滝 久智
佐藤 保
J. Andrew Royle
島田 直明
浅沼 晟吾
牧野 俊一
発行年度 2012
要約 全国的な減少が危惧される、草地や若い森林に住む「遷移初期種」がカラマツ人工林の新植地や伐採跡地に住んでいました。人工林の伐採や適切な管理によって、生物多様性第二の危機が緩和されると期待されます。
背景・ねらい 近年、採草地や若い森林が減少したため、こうした明るい場所(開放地)を生息地とする「遷移初期種」の生物の減少が指摘されています。これは、自然に対する人間の働きかけの減少に起因するもので、「生物多様性第二の危機」とも言われています。カラマツ新植地や伐採跡地で遷移初期種の生物を調査したところ、伝統的な採草地や放牧地に匹敵する種数が生息すると推定されました。皆伐を含む人工林の適切な収穫と管理を行うことにより、林業は新植造林地という開放地を地域に持続的に提供することで、遷移初期種の減少の緩和に貢献しうることが明らかになりました。
成果の内容・特徴

生物多様性第二の危機とは?

戦後日本の土地利用は大きく変化しました。牛馬の飼料や肥料のための採草地の多くは姿を消し、また里山の若い雑木林が放置されたり、針葉樹が植林された結果、成熟した暗い林が多くなっています。また、近年では森林伐採面積も減少するとともに、河川の氾濫などによる自然攪乱も人間の手で抑えられています。そのため、攪乱によって維持される開放地を好む生物、いわゆる「遷移初期種」の全国的な減少が指摘されています。
こうした、人間による自然への働きかけが減少したためにもたらされた生物の減少は「生物多様性国家戦略2010」においても「生物多様性の第二の危機」として指摘され、大きな注目を集めています。一方、皆伐が生物多様性に悪影響を及ぼすという皆伐に否定的な意見もあり、皆伐と生物多様性の科学的評価が求められています。

カラマツ人工林で遷移初期種を調べる

戦後盛んに造成された人工林は、現在成熟期に入りました。国際的な木材需要の増加も相まって、国内の人工林の利用が注目されています。人工林で伐採・植栽が行なわれると、その後一定期間、開放的な環境が維持されます。こうした人工林の林業活動は、遷移初期種の減少緩和に貢献しないでしょうか?
岩手県北上高地において、4種類の開放地(放牧地、伝統的な採草地、カラマツ新植造林地、カラマツ人工林伐採跡地)と2つの森林(カラマツ人工林、老齢天然林)に調査地を設定し、ハナバチ、鳥類、植物について、種数の調査を行いました(図1、2)。ハナバチは一般に開放地で種数が多いことが知られているので、全種を開放地性のグループと見なし、また鳥類と植物は、既存の資料をレビューして、それぞれを「遷移初期種」と「森林性種」とに分けました。そのうえで、開放地と森林とで、種数の比較を行いました。調査で得られた種数は、個体数の影響を考慮して補正しました。
鳥類の遷移初期種と植物の遷移初期種の種数、およびハナバチの種数は、2つの森林よりも4つの草地で高く、さらに4つの開放地の間でおおよそ等しい値を示しました(放牧地での植物の種数が少ないことを除く)(図3)。すなわち、これらの生物群の遷移初期種にとっては、カラマツ新植造林地や伐採跡地は、生息地としての価値は伝統的な採草地に匹敵すると言うことができます。

人工林の積極的利用による生物多様性保全

このように、既存の人工林における林業の復活は、皆伐による新植造林地という開放的な環境を広域的・持続的に提供することにより、遷移初期種の再生に貢献することが期待されます。しかし、忘れてならないのは、高齢な森林を好む生物も多く存在することです。したがって、地域全体としてはいろいろな年齢の森林をバランス良く保つことも必要なのです。

本研究は、平成21年度科学研究費補助金(特別研究員奨励費)「全国的に減少している遷移初期種を再生するための景観生態学的な森林伐採手法の提案」による成果です。

研究成果の詳細は以下をご覧ください。
Yamaura et al. (2012) Biodiversity and Conservation, 2012, 21:1365-1380
図表1 235346-1.jpg
図表2 235346-2.jpg
図表3 235346-3.gif
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p48-49.pdf
カテゴリ 肥料

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