タイトル | マツノザイセンチュウに対するクロマツの抵抗性の機構解明 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
渡辺 敦史 平尾 知士 |
発行年度 | 2012 |
要約 | クロマツのマツノザイセンチュウ抵抗性品種の抵抗性の機構は不明でしたが、線虫を接種し、遺伝子の発現を調査したところ、抵抗性品種では、一般のクロマツで生じる過敏感反応がなく、自らの防御機構で線虫を抑えていることを明らかにしました。 |
背景・ねらい | 松くい虫被害に対応するため、マツノザイセンチュウ抵抗性品種を開発し、それらから増殖した多くの苗木が各地に植栽されています。しかし、これら品種がなぜ抵抗性を有しているのか分かっていませんでした。 このたび、クロマツの抵抗性品種と一般のクロマツに線虫を接種し、遺伝子の発現を調査したところ、一般のクロマツでは、接種直後に、本来必要のない過敏感反応*が現れ、枯れが進行するのに対し、抵抗性品種では、過敏感反応がなく、自らの防御機構で線虫を抑えていることを明らかにしました。 *過敏感反応 病原体に感染したときに現れる防御反応の一つ。感染を受けた細胞が急激に死ぬことで周りに感染が拡がることを防ぐ反応。 |
成果の内容・特徴 | 松くい虫被害と抵抗性品種の開発一般に「松くい虫」被害と呼ばれるマツ材線虫病によるクロマツやアカマツの被害は、我が国の森林病害虫被害では最大です。近年では、これまで被害のなかった青森県にまで北上するとともに、高標高地域にも被害が拡大してきました。マツノザイセンチュウという線虫が松くい虫被害の原因であることから当研究所ではこの線虫に対する抵抗性品種の開発を進め、これまでにクロマツ110品種、アカマツ208品種を開発し、それらから増殖した多くの苗木が各地に植栽されています(図1)。これら抵抗性品種は、各地の松くい虫激害地で生き残ったマツの種子や穂木から養成した苗木に線虫を接種し、そのうち、健全に生育したものが選ばれましたが(図2)、なぜ抵抗性があるのかについては分かっていませんでした。抵抗性品種の効率的な選抜やさらに強い品種への改良のため、また、一般のマツがなぜ弱いのかについて明らかにするためにも、抵抗性機構の解明が望まれていました。 抵抗性の機構解明クロマツの抵抗性品種と一般のクロマツにマツノザイセンチュウを接種し、その後の遺伝子の発現状態を調査しました(図3)。一般のクロマツでは、接種した翌日に数種の感染特異的タンパク質*の遺伝子が高いレベルで発現し、その後、枯れが進行しました。この現象は過敏感反応といわれるものに近く、内外の研究者が病徴の観察から指摘していたものです。一方、抵抗性品種では、接種直後ではほとんど反応がなく、1週間後に数種の感染特異的タンパク質が、2週間後に細胞壁に関する遺伝子が中程度のレベルで発現する程度で遺伝子の発現が緩やかであり、このため、線虫を効果的に抑えました。 これらのことから、北米原産といわれ、我が国のクロマツやアカマツにとっては外来生物であるマツノザイセンチュウに対し、一般のクロマツでは、抵抗性品種では起こらない過敏感反応が生じることにより枯死に至り、大規模な被害が発生するのに対し、抵抗性品種では過敏感反応がなく、自らの防御機構で線虫を抑えていることが明らかになりました。 この成果は、抵抗性品種の効率的な選抜やさらに強い品種への改良に繋げることができます。 *感染特異的タンパク質 病原体の感染によって誘導されるタンパク質。このタンパク質が発現することで病原体への抵抗性が生じることが知られている。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p52-53.pdf |
カテゴリ | 害虫 抵抗性 抵抗性品種 品種 |