タイトル | アカマツの遺伝変異を解明する |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
岩泉 正和 高橋 誠 那須 仁弥 大谷 雅人 |
発行年度 | 2012 |
要約 | マツノザイセンチュウ被害等で減少が心配されている日本各地のアカマツ天然林から採取したDNAを分析して、西南日本、中部日本及び東北日本で遺伝的な組成が異なることを明らかにしました。 |
背景・ねらい | 近年の松くい虫被害の拡大や地球温暖化等に伴い、日本の代表的な針葉樹であるアカマツ林の減少が心配されています。このアカマツの遺伝的な多様性を効果的に保全するためには、集団の多様性や遺伝的組成の地理的な分布パターンを明らかにし、これに応じた保全戦略をつくる必要があります。アカマツは日本では青森県から鹿児島県まで広く分布していますが、分布域全域を対象に、核DNAを分析したところ、東北地域から西南地域に向かって多様性が増加する傾向がみられ、西南日本、中部日本及び東北日本で遺伝的な組成が異なることが明らかになりました。 |
成果の内容・特徴 | アカマツ林の減少アカマツは、日本、朝鮮半島および中国大陸の一部に生育し、建築用材や燃料としての利用の他、里山の景観を構成する重要な樹種として古くから日本人の生活に深く結びついていました。近年、日本各地のアカマツ林で、一般に「松くい虫」と呼ばれる「マツ材線虫病」による被害が拡がり、懸命な防除活動にもかかわらず、被害は南から北へ、また低標高域から高標高域へと拡大が進行しています(図1)。この被害地域の拡大には、近年の地球温暖化が一因になっているとも言われています。このような枯損が進むと、アカマツのもつ遺伝的な多様性が大幅に減少してしまう危険性が指摘されています。遺伝的多様性を守るためには同じ種類の生物でも地域により遺伝的な性質や遺伝的多様性は異なります。アカマツなど広い地域に分布する種の遺伝的多様性を効果的かつ効率的に保存するためには、遺伝的多様性が高い集団や他の地域と異なる遺伝的特性をもつ集団を重点的に保存する必要があります。近年、遺伝的多様性を解明するためにDNAの変異の高い領域を分析する手法が発達し、様々な生物の分析に用いられています。樹木の遺伝的多様性を保全するためには、天然林の一部を保護地域や保護林に指定し、伐採を禁止するなどの措置がとられています。この場合、集団ごとの遺伝的多様性の情報は、保護すべき集団を選定する重要なよりどころとなります。さらに、マツノザイセンチュウ等の病虫害の急激な進行や未被害地域へ拡大などを考えると、人間の手によって今まで分布していなかった地域に積極的に移植するといった手段も必要になってきます。このような場合においても、アカマツ林の持つ遺伝的多様性を最大限に保持しつつ限られた用地に移植するためには、集団ごとの遺伝的多様性の情報は不可欠です。 遺伝的変異の地理的な傾向青森県から鹿児島県までのアカマツ林62集団を対象に、アカマツの核DNAを分析し、集団の遺伝的な構成の地域的な違いを解析しました。全体的に東北地域から西南地域に向かって多様性が増加する傾向がみられ、それぞれの集団の遺伝的な組成を日本地図上に表してみると、大きく西南日本、中部日本及び東北日本で異なっていることが明らかになりました(図2)。今回得られた結果は、球果や種子の形状といった外部形態などの情報と統合させ、アカマツの遺伝的多様性を確実に保存していくための戦略の策定に活用していきます。 |
図表1 | |
図表2 | |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p54-55.pdf |
カテゴリ | 病害虫 防除 |