スギ雄性不稔遺伝子に連鎖するDNAマーカーの開発 -DNAによる無花粉スギ識別の道が拓ける-

タイトル スギ雄性不稔遺伝子に連鎖するDNAマーカーの開発 -DNAによる無花粉スギ識別の道が拓ける-
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 森口 喜成
伊原 徳子
内山 憲太郎
上野 真義
松本 麻子
津村 義彦
二村 典宏
篠原 健司
発行年度 2012
要約 スギ高密度連鎖地図を構築し、雄性不稔遺伝子が第9連鎖群に存在することを明らかにし、無花粉スギ(雄性不稔スギ)の家系内選抜を高い精度で行うことができるDNAマーカーを開発しました。
背景・ねらい スギ花粉症対策として、無花粉スギ(雄性不稔スギ)*の利用に向けた取り組みが各地で進められています。無花粉スギの選抜や新品種の作出には、膨大な労力と時間がかかるため、DNA解析による簡便な識別手法の開発が期待されています。本研究では、針葉樹で最も多くの遺伝子(2,431遺伝子)で構成されるスギ連鎖地図*を作製し、雄性不稔遺伝子(ms1)が第9連鎖群に存在することを明らかにしました。また、ms1に近接したDNAマーカー*を明らかにしたことで、解析に使用した交配家系では96%の精度で無花粉スギを正しく識別することができました。

*無花粉スギ(雄性不稔スギ)
無花粉スギは1993年に初めて富山県で発見され(一対の核内劣性遺伝子によって支配されることが報告され)た。現在までに23個体の無花粉スギが選抜され、4種類の雄性不稔遺伝子(ms1ms2ms3ms4)が発見されている。通常のスギと雄花の外部形態に差異は認められないが、正常な花粉や雄花の発達は起こらず、花粉を飛散させることはない。詳細は、「無花粉(雄性不稔)スギのデータベース」を参照のこと。(http://www.ffpri.affrc.go.jp/database.html#mukahunsugi
*連鎖地図
DNAマーカーの染色体上の順番や間隔をあらわす地図。
*DNAマーカー
品種や個体間の遺伝的な違いを調べるために使用するDNA配列。
成果の内容・特徴

研究の背景

近年、スギ花粉症は我が国の大きな社会問題になっています。林業分野におけるスギ花粉症対策の基本は、花粉発生源を減少させることです。そのため、無花粉スギ(雄性不稔スギ)(図1)の利用に向けた研究が各地で進められてきました。優良な無花粉スギの実生苗を効率的に生産するには、より多くの無花粉スギや雄性不稔遺伝子をヘテロ接合体*で持つ個体(この場合、雄性不稔遺伝子を持っていても片親の正常遺伝子があるため、無花粉スギにならない)が必要となります。しかし、無花粉スギは雄花が着生しないと識別ができませんし、雄性不稔遺伝子をヘテロ接合体で持つ個体は人工交配で作った子供を育て、花粉を確認してようやく識別できるため、それらの選抜には膨大な労力と時間がかかります。また、実生苗での無花粉スギの識別は3年生になるまで確実にはできません。そのため、選抜効率を高めるDNA分析による識別手法の開発が望まれていました。

スギ高密度連鎖地図の作製

これまでに大規模収集してきたスギの発現遺伝子の塩基配列情報を利用して、今後のスギのゲノム研究の基盤となる2,431遺伝子から成る高密度連鎖地図を作製しました(表1)。これは、針葉樹で最も多くの遺伝子で構成される連鎖地図で、非常に有用な情報を持っており、無花粉スギだけでなく、他の有用形質を持つスギについても、DNA情報を利用した選抜手法を開発するための足がかりになります。

雄性不稔遺伝子の位置を連鎖地図上に特定

スギ高密度連鎖地図の情報から、雄性不稔遺伝子(ms1)が第9連鎖群にあることを明らかにしました(図2)。一般的に、遺伝子とDNAマーカーは近いほど一緒に子供に遺伝します。ms1の近くのDNAマーカーを用いることで、解析に使用した交配家系では96%の精度で無花粉スギを正しく識別することができました。今回開発したDNAマーカーは、ms1をヘテロ接合体で持つ個体の家系内選抜も同程度の確率で行うことができると期待されます。これにより、無花粉スギの選抜や新品種の作出にかかる労力や時間を大幅に削減し、花粉症対策品種の育種の加速化が期待できます。今後は、雄性不稔遺伝子ms1の実体を解明する予定です。

本研究は、富山森林研の斎藤真己主任研究員、国際農研の谷尚樹主任研究員、元新潟大の平英彰教授との共同研究です。また、本研究は、林野庁事業「遺伝子組換えによる花粉発生制御技術等の開発事業」、及び生研センターイノベーション創出基礎的研究推進事業「スギ優良個体の選抜のためのゲノムワイドアソシエーション研究」による成果です。
詳しくはMoriguchi et al. (2012) BMC Genomics 13:95をご覧ください。

*ヘテロ接合体
ある遺伝子座において、母親と父親から由来する対立遺伝子が異なる個体をヘテロ接合体と呼ぶ。
図表1 235351-1.jpg
図表2 235351-2.gif
図表3 235351-3.gif
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p58-59.pdf
カテゴリ 育種 新品種 データベース DNAマーカー 品種

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