タイトル | ユーカリからアルミニウムを無害化する新しい物質を発見 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
田原 恒 橋田 光 大塚 祐一郎 大原 誠資 篠原 健司 |
発行年度 | 2012 |
要約 | 強い酸性の土壌で植物の生育を妨げるアルミニウムを無害化する新しい物質を、ユーカリの根から発見しました。この発見は、強い酸性の土壌を効率的に緑化する技術の開発につながります。 |
背景・ねらい | 世界の陸地の約3割を占める強い酸性の土壌では、有害なアルミニウムが溶け出して植物の生育を妨げています。強い酸性の土壌でも、よく生育する樹木にオーストラリア産樹木のユーカリがあります。なぜユーカリが強い酸性の土壌に耐えられるのかを調べたところ、ユーカリがこれまで知られていない物質によってアルミニウムを無害化していることを発見しました。この新しいアルミニウムを無害化する物質は、ポリフェノールの一種の加水分解性タンニンであることを明らかにしました。今回の発見を上手に応用すれば、強い酸性の土壌でも生育する樹木や作物の開発、新たな土壌改良剤の開発が可能になります。 |
成果の内容・特徴 | 研究の背景世界の陸地の約3割は、強い酸性の土壌で覆われています。強い酸性の土壌では、土壌を構成している粒子から、有害なアルミニウムが溶け出してきます。そのため、植物は根を伸ばすことができず、枯れてしまったり、成長が悪くなったりします(図1)。オーストラリア産樹木のユーカリ(Eucalyptus camaldulensis)は、強い酸性の土壌でも育つことができ、高濃度のアルミニウムにも耐えられます(図2)。私たちは、ユーカリがなぜ高濃度のアルミニウムに耐えられるのか栽培実験を行い調べました。新しいアルミニウム無害化物質の発見ユーカリは、アルミニウムを無害化する物質を作り、アルミニウムから身を守っているのではないかと考え、ユーカリの成分を分析しました。その結果、ユーカリの根からアルミニウムを無害化する新しい物質を発見しました。発見した物質は、加水分解性タンニンと呼ばれるポリフェノールの一種Oenothein Bであることを明らかにしました(図3)。この物質は、アルミニウムと結合して、アルミニウムを無害化できる部位を22個も持っていました。これまで植物で最も強力にアルミニウムと結合すると知られていたクエン酸以上に強くアルミニウムと結合することも分かりました。このアルミニウム無害化物質は、ユーカリの根に約1%と高濃度に含まれており、茎や葉にも含まれています。一方、アルミニウムに弱い樹木(Melaleuca bracteataやPopulus nigra)について調べたところ、この物質は含まれていませんでした。また、ユーカリを根の周りにアルミニウムがある状態で育てると、この物質が根で増えることも分かりました。ユーカリはこの物質とアルミニウムを根で結合させ、無害化することで高濃度のアルミニウムに耐えられるのではないかと考えています(図4)。今後の展開ユーカリ樹体内でアルミニウム無害化物質がどのように合成されているか、その仕組みを解明すれば、アルミニウムに耐えられる(すなわち、強い酸性の土壌に耐えられる)樹木や作物の開発につながります。また、新たな土壌改良剤の開発も考えられます。酸性の荒廃地を緑化したり、強い酸性の土壌で作物を育てたりできれば、地球温暖化の原因である二酸化炭素の森林への固定や、人口増加による食糧不足の緩和に貢献できます。なお、本研究は東京大学の小島克己教授との共同研究です。本研究は、科学研究費補助金「ユーカリが有する新規アルミニウム無害化物質の構造と機能の解明」(21780158)により行いました。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2012/documents/p60-61.pdf |
カテゴリ | 土壌改良 |