タイトル |
転写因子NINは根粒形成の最終実行因子である |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2008~2012 |
研究担当者 |
征矢野敬
横田圭祐
河内 宏
廣田敦子
林 誠
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発行年度 |
2012 |
要約 |
根粒菌による共生的窒素固定能をイネに付与するためには、マメ科植物特有の因子を明らかにすることが鍵となる。根粒形成に必要な転写因子NINは細胞分裂を直接制御していた。イネでNINを発現させることで、イネに根粒を誘導できる可能性が生じた。
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キーワード |
窒素固定、根粒菌、根粒形成、植物・微生物共生、転写因子、ミヤコグサ
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背景・ねらい |
根粒菌はダイズなどマメ科植物の根に感染して根粒形成を誘導し、根粒内で大気中の窒素をアンモニアに固定して植物に供給する。一方、イネ、コムギ、トウモロコシなどの主要作物においては、窒素源は化学肥料などの施肥に依存している。将来的な埋蔵資源の枯渇や、化学肥料の輸入価格高騰などの食料安全保障の面、および過剰施肥による環境汚染の面から、作物の栽培において化学肥料に依存しない戦略が望まれる。 そこで、イネなどの非マメ科作物に根粒形成能を付与するために、根粒形成の分子遺伝学的機構の解明を目指した。マメ科植物が進化的に根粒形成能を獲得した経緯を明らかにすることで、その鍵となる遺伝子をイネなどに導入し、根粒形成能を付与できると考えた。
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成果の内容・特徴 |
- これまで、ミヤコグサなどマメ科モデル植物を材料とした分子遺伝学的解析から、根粒菌の分泌する共生シグナルを受容した植物は、菌根菌との共生にも必要な共通共生経路を利用して、最終的に根粒形成に必要な転写因子を活性化し、根粒形成を誘導すると考えられている(図1)。さらに、共通共生経路は、イネなど菌根菌と共生する陸上植物に広く保存されていることが示されている。
- そこで、共通共生経路の下流で根粒形成において機能するタンパク質に着目した。中でもDNA結合部位を持つと推定される「NIN」については、マメ科植物特有であり(図2)、マメ科植物におけるNINの進化が根粒形成能の獲得に寄与していると考え、解析を行った。
- NINの根粒形成における作用機構を明らかにするために、NINが転写因子として結合する遺伝子のプロモータ配列を特定した。その結果、細胞分裂を調節する因子であるNF-Yの発現をNINが直接制御していることを明らかにした。そこで、NINを過剰発現したところ、根粒菌が存在しなくても根粒様の構造が誘導された(図3)。さらに、NF-Yの機能を抑制したところ、根粒形成が阻害され、逆にNF-Yを過剰発現したところ、細胞分裂が誘導された。これらの結果から、NINがNF-Yの発現を制御することで、根粒形成を調節していると考えられた(図3)。
- NINはマメ科特有の因子であるが、そのターゲットとなっているNF-Yは真核生物に広く保存されていることから、NINが進化の過程でNF-Yの発現を制御する能力を獲得したことにより、マメ科植物が根粒形成能を獲得したと考えられる。
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成果の活用面・留意点 |
- マメ科植物が進化の過程で根粒形成能を獲得した原因を、遺伝子レベルで明らかにした。
- イネなど非マメ科植物への根粒形成能付与については、これまで具体的な方法論が示されてこなかった。今回の成果により、マメ科植物遺伝子の導入によってそれを実現できる可能性が示された。
- イネにおいて、根粒菌の感染に伴って根粒形成を誘導させるには、NINの発現調節やターゲットとなるNF-Yのイネにおける機能を明らかにするなど、ミヤコグサとイネの遺伝子機能の比較解析が肝要である。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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研究内容 |
http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h24/nias02408.html
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カテゴリ |
肥料
施肥
大豆
とうもろこし
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