タイトル | 仙台湾における淡水および海水の平均滞留時間の推定 |
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担当機関 | (独)水産総合研究センター 東北区水産研究所 |
研究担当者 |
筧 茂穂 伊藤進一 八木 宏 和川 拓 震災対応調査メンバー |
発行年度 | 2012 |
要約 | 東北地方太平洋沖地震に伴う大津波の影響を受けた仙台湾において、海洋観測および係留系観測を行い、ボックスモデルを用いて淡水および海水の平均滞留時間を18~21日、39~44日と推定した。震災直後から夏にかけて気象擾乱に伴う間欠的な海水交換も頻繁に発生しており、津波によって仙台湾に流入した物質のうち、溶存態および懸濁態のものは比較的速やかに湾外に流出したと考えられる。 |
背景・ねらい | 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による大津波は仙台湾沿岸部に壊滅的な被害をもたらし、仙台湾への陸上起源物質の大量流出が懸念された。海域に流出した陸上起源物質が湾内に滞留すると、富栄養化、赤潮や貧酸素水塊の発生などにつながりうる。陸上起源物質が湾内にどの程度流入し、どの程度滞留するかを定量化するには、震災発生直後から頻繁に観測を行い、対象物質の濃度変化を明らかにする必要があるが、これを震災後に実現するのは困難であった。そこで震災後に実施した海洋観測と係留系による連続観測のデータを用いて、淡水あるいは海水の滞留時間を推定することにより、陸上起源物質の外洋水による希釈の時間スケールを求めることにした。 |
成果の内容・特徴 | 東北区水産研究所所属若鷹丸を用いて、2011年6月以降に月に2回~2ヶ月に1回程度の頻度で実施した海洋観測のうち、成層状態が安定していた2011年8月上旬(8/5~6)と下旬(8/23~25)の観測データ、および7月下旬~8月下旬に実施した係留観測データを用いた。8月上旬と下旬の水温および塩分の分布に大きな変化はなく、この期間における一級河川(阿武隈川、名取川、吉田川、鳴瀬川、旧北上川)の河川流量や表層塩分も安定していた。これらのことから、8月上旬~下旬にかけての仙台湾の水塊構造はほぼ定常であったと考えられる。塩分の分布から湾規模で上層での低塩分水の流出、下層での高塩分水の流入というエスチュアリー循環が形成されている可能性が高い。そこで、8月上旬および下旬それぞれの塩分分布を定常状態と仮定して塩収支を用いたボックスモデルによってエスチュアリー循環による海水交換時間を推定した.湾内の淡水および海水の平均滞留時間はそれぞれ18~21日、39~44日と見積もられ、約1.5ヶ月で海水交換が起きていることが明らかとなった。この結果から、震災で湾内に流入した陸上起源物質は、観測の行われた8月には約4%に希釈されていたと推察される。さらに2011年には台風や停滞前線などの気象擾乱に伴う出水が7回あり、間欠的な海水交換も頻繁に発生していた。これらのことから、震災後に沿岸域に流出した陸上起源物質のうち、溶存態あるいは懸濁態のものについては比較的早期に湾外に流出した可能性が高いと考えられる。 |
成果の活用面・留意点 | 本研究の成果は、震災後3ヶ月目から得られた仙台湾の海洋環境に関するさまざまなデータについての分布、時間変動を解釈し、震災の影響を評価する上で重要である。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
図表4 | ![]() |
図表5 | ![]() |
研究内容 | http://fra-seika.fra.affrc.go.jp/~dbmngr/cgi-bin/search/search_detail.cgi?RESULT_ID=4126&YEAR=2012 |