タイトル | アサリの非対称殻模様出現頻度における地域差 |
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担当機関 | (独)水産総合研究センター 増養殖研究所 |
研究期間 | 2010~2012 |
研究担当者 |
張 成年 山本敏博 渡辺一俊 |
発行年度 | 2012 |
要約 | 優性遺伝形質であるアサリ殻模様の非対称型(A型)頻度は北海道と関東近辺で高く、東北、浜名湖以西で低かった。千葉県盤州ではA型頻度が低い地域のアサリが2007年まで放流されてきた。盤洲の2005年度標本では殻長20mm未満でA型が22%、25mm以上で0%であったが、2011年以降の標本ではサイズによらずA型が20%見られ、遺伝的攪乱が限定的であることが示された。 |
背景・ねらい | 動物では珍しくアサリの殻模様は左右で非対称の個体が普通に存在する(図1)。交配実験によると非対称模様は優性遺伝形質であることが示されている。この遺伝的マーカーを応用して日本国内のアサリ地域個体群間の関係や放流の影響について検討した。 |
成果の内容・特徴 | 北海道~九州14道府県の24地域及び中国の2地域から計56標本、12,252個体を収集し、非対称型殻模様個体(A型)の頻度を調査した。A型頻度は北海道と関東近辺(東京湾、相模湾、沼津)で高く(14.5-28.1%)、東北、浜名湖以西及び中国で低かった(0-9.9%)(図2)。アサリのサイズとA型頻度には関係はなかった。千葉県盤州ではA型頻度が低い三河湾産や中国産アサリの放流が2007年まで行われてきた。2005年の盤州標本を小型個体(殻長20mm未満)と大型個体(25mm以上)に分けてA型頻度を調べたところ、小型グループでA型が22%、大型グループで0%であり大型グループで放流個体が多いことが示された(p<0.001)。一方、放流が行われていない湾奥の三番瀬や海の公園ではサイズや採集年に拘わらずA型の出現頻度は20%前後で安定していた(表1)。このことは放流が行われていた時期の盤州においては大型グループで放流個体が多いことを示している。 |
成果の活用面・留意点 | 単純な遺伝マーカーにもかかわらず、北海道・関東及びその近隣とその他地域間といった広い範疇での地域間差を検出することができただけでなく、沼津と浜名湖標本間で見られた異質性のように、比較的近隣の地域個体群間でも強い隔離が働いている場合があることが示された。1990年代から愛知や有明海産アサリ及び外国産アサリを盤洲一帯に放流してきたにもかかわらず、A型頻度は低下もせず維持されている。このことから、盤州一帯に放流された他地域産のアサリはA型頻度を低下させるほどには次世代に貢献していないことを示す。殻模様という表現型の観察記録では、個体を殺す必要がなく特別な分析機器も不要であることから現場で作業を行うことができる。研究機関だけでなく漁協あるいは小中高校での調査や教育に活用できる裾野が広いツールであると考えられる。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
研究内容 | http://fra-seika.fra.affrc.go.jp/~dbmngr/cgi-bin/search/search_detail.cgi?RESULT_ID=4287&YEAR=2012 |
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