タイトル |
水田の中干し延長によるメタン発生量の削減 |
担当機関 |
(独)農業環境技術研究所 |
研究期間 |
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研究担当者 |
須藤 重人
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発行年度 |
2012 |
要約 |
[ポイント]- 慣行の中干し期間を一週間程度延長することにより、コメ収量への影響を抑えつつ水田からのメタン発生を約30%削減できることを、全国9地点での実証試験から明らかにしました。
- 本成果を科学的根拠として、水田の中干し延長は環境保全型農業直接支払い制度の地域特認取組として承認されています。
[概要]- 中干し期間の延長によって水田からのメタン発生量を削減する効果を検証するため、全国8県9地点の農業試験研究機関圃場における実証試験を2年間にわたり実施しました。
- その結果、メタン発生量の多い稲わら等の新鮮有機物を施用した水田では、中干し期間を慣行からさらに一週間程度延長すれば、コメ収量への影響を抑えつつメタン発生量を約30%削減できることがわかりました。
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背景・ねらい |
水田土壌由来のメタン*1は、我が国の人為起源メタン発生量の約30%を占めることから、水田は重要な温室効果ガス発生源となっています。また、稲わらなどの新鮮有機物を水田に施用することはメタン発生量を増加させることが知られています。そこで、地球温暖化防止のために、有機物を施用した場合でも、効果的に水田からのメタン発生量を削減する管理技術の開発が求められています。これまでの研究から、水田の中干し*2を延長することにより、メタン発生量は削減できることが示されています。しかし、どのくらいの期間の中干しが有効であるのか、収量や一酸化二窒素*3発生などへの悪影響はないのかなど不確かな点が多く、普及は進んでいません。そこで全国規模の実証試験を実施し、中干し延長によるメタン発生削減効果とコメ収量変動等への影響を明らかにしました。 *1メタン:主要な温室効果ガスの一つ。化学式CH4。二酸化炭素の約21倍の地球温暖化効果をもつ。水田、反すう動物、化石燃料の採掘と燃焼等が主な発生源である。 *2中干し:水稲作において最高分げつ期頃で、水の必要程度の最も少ない時期に、1~2週間程度水田に水を落水させることで、増収、品質向上させること。土中深く酸素を送ることになり、根の力の衰えを防ぐとともに窒素の過剰吸収を抑え、カリウムの吸収を良くし根を硬くする。さらにこの時期の中干しは、無効分げつと稈基部の節間伸張を抑制し、耐倒伏性と登熟歩合を高める効果がある。 *3一酸化二窒素:亜酸化窒素とも称す。主要な温室効果ガスの一つ。化学式N2O。二酸化炭素の約310倍の地球温暖化効果をもつ。窒素肥料を施用した土壌、家畜ふん尿、工業生産プロセス等が主な発生源である。水田において、湛水状態ではほとんど発生しないが、中干しなどの落水により発生することが知られている。
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成果の内容・特徴 |
- 中干し期間の延長による水田からのメタン発生削減効果に関する実証試験を、全国8県9地点で、それぞれ2年間行いました(図1)。各地での実証試験では、地域ごとの慣行の中干し期間を前或いは後ろに延長し、メタン発生量の変化を観測しました。その結果、図2に示す観測例のように、中干しの延長により、中干し期間と再湛水後のメタン発生量が慣行に比べて大きく低減することから、水田由来のメタン発生量は効果的に削減できることが明らかになりました。
- 全国9カ所の水田において、3~14日間(9地点のうち5地点は7日間、平均6日間)の中干し延長を行った処理区では、慣行中干し区に比べて一作あたりのメタン発生が12~55%(平均では30%)削減される効果が認められました(図3(a))。これらの処理区は、すべて稲わらまたは麦わらのすき込まれたものであり、すき込まれていない試験区では削減効果は認められませんでした。また、中干しを延長することによる一酸化二窒素の発生量の増加は、メタン発生量と較べて無視できるほどに少量であることも確認しました。
- 上記のメタン発生削減効果が認められた処理区における収量(精玄米重)は対慣行比-14~+10%であり、平均3%の減収が見られました(図3(b))。中干し期間をさらに延長した処理では、より多くの収量減が認められたことから、中干し延長は一週間程度が適当であると考えられました。一方、多くの地点において中干しの延長によって慣行より登熟歩合が向上し(図3(c))、タンパク含量の低下が認められる(図3(d))など、収穫したコメの品質の向上が示されています。
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成果の活用面・留意点 |
- この実証試験の成果は「水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル」として公開されています。
- 本成果は、滋賀県において、環境保全型農業直接支払い制度の地域特認取組*4として承認されました。「環境こだわり農業」を推進している滋賀県では、すでに水稲栽培面積の約2割で中干し延長が取り組まれています。ここでは、夏期高温対策およびカドミウム対策として水稲出穂前後各3週間湛水管理するため、本成果で示された水稲分げつ期における中干し延長は収穫期の機械作業に必要な地耐力を高める効果も期待されています。
- 環境省温室効果ガス排出量算定方法検討会において、本成果により得られたメタン削減効果を日本国インベントリ報告書に反映することが検討されています。
- 本成果によるメタン発生削減を図りながら、稲わらなど有機物施用による土壌炭素蓄積効果(二酸化炭素吸収効果)を同時に高める技術を開発するため、温室効果ガス全体の影響を総合的に評価する研究を進めています。
*4地域特認取組:農林水産省は、農業者等が化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組とセットで、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む場合に支援する「環境保全型農業直接支払い制度」を実施しているが、そのなかで、地域の環境や農業の実態等を勘案した上で、地域を限定して支援の対象とする営農活動。平成24年度から適用されている。
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図表1 |
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図表2 |
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研究内容 |
http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/result/result29/result29_02.html
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カテゴリ |
肥料
病害虫
管理技術
高温対策
水田
農薬
水管理
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