タイトル | 将来の高い二酸化炭素濃度によって、森林全体の光合成生生産量が増加する |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
宇都木 玄 飛田 博之 上村 章 原山 尚徳 北岡 哲 |
発行年度 | 2013 |
要約 | 二酸化炭素濃度を2倍にしたとき、明るい場所にある葉の光合成能力は低下しました。しかし森の下層(暗い場所)まで考慮した森林全体としては、光合成生産量が増大すると予測されました。 |
背景・ねらい | 森林は二酸化炭素(CO2)と水と光エネルギーからデンプンや糖類等の炭水化物等を生産し(光合成)、それは私たち地球上の生物が生存するための根源となります。CO2の増加は地球温暖化の原因と言われますが、光合成の基質として見た場合、森林の成長にプラスの影響を及ぼすでしょうか?私たちは実験的に現在の2倍のCO2濃度で、北海道の落葉広葉樹林を構成する5樹種を栽培しました。すると個葉の光合成能力が低下してしまいました。これは光合成で作られた炭水化物が葉内に蓄積してしまう事が原因でした。しかし光合成に必要な光エネルギーが少ない(暗い)場所、つまり森林の中・下層では個葉の炭水化物の蓄積が少なく、森林全体としては総生産量が増大する事を明らかにしました。 |
成果の内容・特徴 | 高いCO2濃度が森林にもたらすもの産業革命以降CO2濃度の増加は急激で、地球温暖化の原因と考えられています。こうした将来にわたるCO2濃度の増加は、森林の生産量にどのような影響を与えるのでしょうか。CO2は地球温暖化の悪玉である一方、光合成の基質であるため、森林の生産量は増大しそうなのですが?私たちは北国の落葉広葉樹林を代表するするエゾノキヌヤナギ、シラカンバ、ミズナラ、イタヤカエデ、ケヤマハンノキを選び、現在のCO2濃度370ppm(低CO2)と、その約2倍の720ppm(高CO2)で栽培しました。そしてCO2濃度の増加が個葉の光合成能力と森林の生産量に与える影響を調べました。明所で育て、CO2条件以外は現在の環境条件と同等としました。光合成能力は、最大カルボキシル化速度(Vcmax)で、また生産量は単位時間当たりに吸収した炭素量で評価しました。 個葉の光合成能力と炭水化物の増加3ヶ月間にわたる栽培試験の結果、低CO2条件に比べて高CO2条件では、全ての樹種で光合成能力は低下しました(図1)。また低CO2条件に比べ、高CO2条件では炭水化物濃度が増加し(図2)、逆に窒素濃度が低下しました(写真1)。次に私たちは質量分析計を用い、葉内の光合成系に関する代謝産物*を網羅的に調べました。すると高CO2条件では、解糖系やTCA回路といった炭水化物からATP*を生成する回路の代謝産物が減少しており、2-オキソグルタミン酸がタンパク質に合成される回路への窒素供給不足が原因であると考えられました。これらのことから、光合成能力低下は、光合成産物からエネルギーを取り出す異化作用の変化に起因していると示唆されました。 森林全体への影響森林では明所から暗所(森林上部から下部)まで葉が分布しています。そこで光エネルギーが少ない暗所で光合成能力を調べると、高CO2条件下でも光合成能力の低下が生じませんでした(炭水化物の蓄積も無い)。つまり、森林の中/下層では光合成が光に律速されており、高CO2条件は個葉の光合成に有利に働くと言えます(図3)。これらの事をモデル化して計算したところ、森林全体の光合成生産量(総生産量)は、「温暖化(最大4度)した場合も含め、高CO2環境条件下で増大する」と言う結果が得られ(図4)、これまでのFACE実験*と矛盾しませんでした。また、樹種によって増大量は異なっていたことから(図4)、樹種特性を活かした森林造成により、高CO2環境下では高い生産量を得られる可能性があります。本研究は、「(独)農研機構・生物系特定産業技術支援センターのイノベーション創出基礎的研究推進事業」の成果です。 *代謝産物 生命の維持に必要な化学反応の途中で生成される物質群の事。 *ATP アデノシン三リン酸の略で、生物体内エネルギーを司る基礎的な物質。 *FACE実験 野外でCO2を多量に暴露して、植物の反応や生長量を調べる実験。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2013/documents/p32-33.pdf |
カテゴリ | かえで 技術支援 しそ |