過去の写真から山地崩壊発生の前兆をつかむ

タイトル 過去の写真から山地崩壊発生の前兆をつかむ
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 大丸 裕武
村上 亘
発行年度 2013
要約 静岡県で調査した結果、深層崩壊が発生する前に斜面に小さな崩壊が発生する例が多く、拡大崩壊で発生する堆積岩山地の崩壊予測に利用できると考えられます。
背景・ねらい 山地で発生する深層崩壊は一瞬のうちに崩れて住宅地や農地を飲み込むので、崩壊危険地を事前に察知することが重要です。静岡県の千頭地域で最近深層崩壊が発生した斜面について、空中写真や衛星画像を利用して崩壊までの状況を解析しました。その結果、この地域では小さな崩壊地が拡大して大規模な深層崩壊が発生する例が多く、斜面下部に生じる小規模な崩壊を手がかりに、深層崩壊の危険性を予測できることが明らかになりました。
成果の内容・特徴

深層崩壊とは

深層崩壊は山体の一部がかたまりとなって急速に崩落する現象です。地表付近の土壌層のみが崩れ落ちる表層崩壊とは異なり、森林や防災施設の力で深層崩壊を食い止めることは、大変難しいものです。このため、地形や地質の特徴を手がかりに、事前に危険な斜面の特徴を把握しておき、豪雨の際の早期避難を促すことが被害を軽減する鍵となります。

成長する崩壊地

図1は大井川の寸又峡周辺で1948年以降に10ha以上の新たな崩壊の発生や崩壊の拡大が見られた5箇所の斜面の空中写真と衛星画像を時間経過に沿って並べたものです。よく見ると、ほとんどの斜面で大きな崩壊が発生する前から、小規模な崩壊が見られることがわかります。崩壊地2については1948年の段階ですでに現在と同程度の大規模な崩壊地が見られますが、これも明治時代の測量で作成された地形図をみると、元々は現在よりもずっと小さな崩壊地だったことがわかります。つまり、この地域で最近発生した大規模な崩壊地はすべて、それ以前からの小さな崩壊地が拡大してできたものと考えられます。

傷だらけの山体で起きる拡大崩壊

このような崩壊の拡大はどうして起きるのでしょうか。榛原川流域にある崩壊地2(写真1)を例に考えてみます。この崩壊地の表面に現れた岩盤は縦に走る何本もの断層によって切られていることがわかります(写真2)。また尾根付近の岩盤(写真3)をみると、写真の右側では地層の縞模様がはっきりとわかりますが、左側に行くにつれて地層の縞模様は不明瞭になり、地層が砕けて砂利のようになっていることがわかります。これは、山体が自らの重さで変形(重力性クリープ)する過程で岩石がバラバラになってほぐれてしまったためです。この地域の山地の岩盤は多くの断層によって切断されたうえに、重力変形によって破砕されて、巨大な積み木細工のような状態になっています。このような山地では、豪雨や川の浸食によって山すそに小さな崩壊が発生すると、その上部の脆くなった岩盤は、下からの支えを無くして、いっそう不安定化になって崩れやすくなります。ちょうど、“将棋崩し”という遊びで、端の駒を一つ抜いただけで、駒の山全体が崩れてしまうのと似ています。実際に崩壊地2の背後でも、尾根の斜面が不安定となり亀裂が発生しています(写真4)。

深層崩壊の前兆現象を見極めるには

このような大規模な深層崩壊に先行する小崩壊は、九州地方でも観察されています。今回、大井川流域でも同様の現象が検証できたことから、他の地域でも前兆現象として利用できる可能性があります。深層崩壊の発生メカニズムは山地の地形や地質に大きく異なります。ゆっくりと重力変形をしている急峻な山地では、このような小崩壊を前兆現象として利用できそうです。ただし、多量の地下水の湧出によって、山体が一気に滑り出すような崩壊の予測は難しいことです。深層崩壊を的確に予測するには、地域毎に崩壊の発生パターンと地形や地質との関係を解析するという地道な努力が必要です。そのためには、林野庁や国土地理院が蓄積した過去の空中写真は無くてはならない大切な資産です。どんなに高性能な人工衛星が開発されても過去の国土は撮影できないのですから。

本研究は運営費交付金課題「山地災害の被害軽減のための予防・復旧技術の高度化」の成果です。
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図表3 235899-3.jpg
図表4 235899-4.jpg
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図表6 235899-6.jpg
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2013/documents/p44-45.pdf
カテゴリ くり

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