スギの雄性不稔に関連する遺伝子の探索と機能分類

タイトル スギの雄性不稔に関連する遺伝子の探索と機能分類
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 二村 典宏
篠原 健司
発行年度 2013
要約 雄性不稔スギ(無花粉スギ)に正常な花粉ができない理由を探るため、花粉の形成過程を観察し、発現する遺伝子の違いを比較しました。無花粉スギにおける花粉崩壊の過程と関連する遺伝子が明らかになりました。
背景・ねらい スギ花粉症対策の一環として、各地で雄性不稔スギ(無花粉スギ)が選抜され、利用に向けた取り組みが進んでいます。無花粉スギで花粉が飛散しないのは、花粉が正常に形成されないためですが、その仕組みは明らかになっていません。無花粉スギの特性や遺伝子レベルでの制御機構を明らかにすることは、今後の無花粉スギの利用の拡大や新たな品種の開発につながります。本研究では、3種類の無花粉スギについて、花粉発達のどの過程で異常が生じるのかを観察するとともに、発現する遺伝子の違いを比較しました。これら無花粉スギはそれぞれ異なる発達段階で花粉が崩壊しており、発現量が変動する遺伝子に違いがあることが明らかになりました。
成果の内容・特徴

研究の背景

スギ花粉症患者の数は近年ますます増加しており、社会問題となっています。花粉症対策のひとつとして、花粉を飛散しないスギ(無花粉スギ)を利用する取り組みが進められています。これまでに23個体の無花粉スギが選抜されていますが、その原因となる遺伝子(雄性不稔遺伝子)は共通ではなく、実態は明らかになっていません。本研究では、富山不稔1号、新大不稔1号、新大不稔5号という3種類の無花粉スギについて、正常な花粉ができない理由を明らかにするために、花粉の発達に異常が生じる過程を観察し、関係する遺伝子を探索しました。

無花粉スギにおける花粉の発達過程の比較

無花粉スギにおいて花粉がどのような発達過程を辿るのかを知るために、雄花の切片を光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡で詳細に観察しました。スギ花粉の飛散が開始する約3ヶ月前の雄花の中の未成熟な花粉(小胞子)を観察すると、無花粉スギでは小胞子が崩壊したり変形したりしていることが分かりました(図1)。また、無花粉スギの種類によって、花粉形成に異常が生じる過程は異なることが明らかになりました。

無花粉スギの花粉発達過程で働く遺伝子の解析

DNAマイクロアレイ*を使うと、多数の遺伝子の発現を一度に解析することができます。本研究では、独自に作製したスギ用のDNAマイクロアレイを用いて、約2万2千種類の遺伝子について発現量を解析しました。富山不稔1号、新大不稔1号、新大不稔5号では、正常な花粉を形成するスギと比較して発現量が2倍以上変動した遺伝子がそれぞれ1,525種、1,852種、765種ありました(図2)。変動した遺伝子には、小胞子への物質の輸送や花粉壁の形成等に関わると見られるものがありました(表1)。これらの遺伝子のなかには、どの無花粉スギにおいても共通して発現量が変化した遺伝子と、特定の無花粉スギのみで発現量が変化した遺伝子があります。共通して発現量が変動した遺伝子は、正常な花粉の発達に関与する遺伝子であると考えられます。特定の無花粉スギで発現量が変動した遺伝子は、雄性不稔遺伝子と密接な関わりのある遺伝子である可能性があります。
本研究によって、無花粉スギにおける花粉崩壊のメカニズムの解明に近づきました。得られた成果は、今後のスギの育種や遺伝子組換えを用いた新たな品種開発に役立つことが期待できます。

本研究は、林野庁事業「遺伝子組換えによる花粉発生制御技術等の開発事業」による成果です。

*DNAマイクロアレイ
ガラスやプラスチックの基盤上に多数のDNA断片を配置した分析器具のこと。遺伝子から転写されたmRNAを逆転写することにより合成したcDNAをDNAマイクロアレイに結合させることにより、基盤上に配置したDNA断片に相当する遺伝子の発現量を解析することができる。
図表1 235908-1.jpg
図表2 235908-2.png
図表3 235908-3.png
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2013/documents/p62-63.pdf
カテゴリ 育種 品種 品種開発 輸送

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