タイトル | 広葉樹をマツタケの宿主にすることに成功 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究担当者 |
村田 仁 下川 知子 根田 仁 丸山 毅 大平 辰朗 |
発行年度 | 2013 |
要約 | マツタケは、アカマツなどマツ科の針葉樹と菌根を形成し、根から栄養分をもらって生育しますが、中南米に分布する広葉樹セドロ(センダン科)とも菌根を作り、マツタケ菌糸が土壌中に広がり、セドロも良好に生育しました。 |
背景・ねらい | 針葉樹のマツ類以外の樹木をマツタケの宿主*とすることに成功しました。マツタケは、宿主である針葉樹のマツの根に感染し、共生関係を結ぶことでその根から栄養をもらって生育します。このため、マツタケ栽培化試験ではこれまでアカマツが宿主に用いられてきましたが、栽培化は成功していません。私たちは、「マツタケはマツ類の樹木としか共生しないのか?」、「アカマツよりも容易に共生する樹木はないのか?」などの疑問を持ち、実験室内で培養がしやすい樹木で宿主になる植物を探した結果、熱帯産の広葉樹セドロが適していることがわかりました。本発見により、マツタケ栽培化研究に新しい道を拓きました。 *宿主 菌類などの寄生または共生の対象となる生物。 |
成果の内容・特徴 | 研究の背景マツタケはマツ林に発生します(図1)。木材を分解して生育するシイタケなどとは違い、菌糸はマツの根の表面を被って共生し、「菌根*」と呼ばれる共生器官を作り、根から栄養をもらって生育します。そして、マツタケは、この菌根から林地に菌糸を広げ「シロ*」と呼ばれる塊状の菌糸の集団をつくり、そこから子実体(きのこ)を発生させます。このような条件を人工的に作り出すことは難しいため、これまでマツタケの栽培はできませんでした。一方、マツタケを生産していた里山は、手入れ不足やマツ材線虫病の発生などにより衰退が進み、国産マツタケの生産量は激減しています。このような現状から、マツタケの人工栽培化の技術が根強く望まれてきました。マツタケの新しい宿主を発見これまで、本来の宿主植物であるアカマツを用いたマツタケ栽培が試みられてきましたが、成功しませんでした。私たちは、「マツタケはマツ類の樹木にしか共生しないのか?」、「アカマツよりも容易に共生する樹木はないのか?」などの疑問を持ちました。実験室内で培養しやすい樹木を対象に調べたところ、中南米産の広葉樹セドロ(Cedrela odorata、マホガニーと同じセンダン科)がマツタケの宿主に適していることを発見しました。培地には、マツタケが好む花崗岩土壌(山砂)に最低限の栄養源を添加したものを用い、セドロの苗にマツタケ菌を接種し、他の微生物がいない状態で約4ヶ月、一緒に培養したところ、マツタケ菌糸はセドロの根と菌根を形成し、シロができました(図2)。 セドロ-マツタケのシロは、アカマツ-マツタケのシロと同様の形態の菌糸塊で、マツタケのシロ独特の香りを発します。セドロの根の表面をマツタケ菌糸が被い、セドロの根はさかんに枝分かれしました。セドロの根に侵入したマツタケ菌糸は、主に根の細胞間隙に侵入します(図3)。そして、菌との共生が成立したセドロは、良好に成長しました(図4)。 マツタケ栽培の実現に向けて本研究では、自然界では亜寒帯から温帯に分布する針葉樹のマツ類を宿主にするマツタケが熱帯の広葉樹とも菌根を形成し、シロを作ることが明らかになりました。この結果は、マツ類以外の樹種を用いたマツタケ栽培の可能性があることを示唆しています。今後は、施設栽培に適したセドロの優良な苗の選抜や、野外での栽培に最適な国内産樹種を見いだし、マツタケの人工栽培を実現させたいと考えています。本研究は森林総合研究所交付金プロジェクト「マツタケ人工栽培のためのシロ形成技術の開発」による成果で、信州大学農学部・山田明義准教授と連携して推進しました。詳しくはMurata et al. (2013) Mycorrhiza 23:235-242をご覧下さい。 *菌根 植物と菌類との共生形態。菌類の菌糸が植物の根の表面や内部に侵入し、根の細胞から栄養分を受け取る。植物は菌根のはたらきで、水、無機養分の吸収能力が高まる。 *シロ 菌糸の塊状の集落。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
図表4 | ![]() |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2013/documents/p64-65.pdf |
カテゴリ | くり しいたけ シカ 施設栽培 |