遺伝子組換えによるスギ花粉形成抑制技術を開発

タイトル 遺伝子組換えによるスギ花粉形成抑制技術を開発
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 小長谷 賢一
谷口 亨
栗田 学
発行年度 2013
要約 RNA分解酵素遺伝子を用い、スギ花粉形成抑制技術を開発しました。遺伝子組換えによる無花粉スギの作出は、初めての成功例です。
背景・ねらい スギ花粉症はわが国の深刻なアレルギー疾患となっています。本研究では、花粉発生源対策の一環として、遺伝子組換えによるスギの花粉形成抑制技術を開発しました。この遺伝子組換えでは、スギ花粉を取り囲んでいるタペート層と呼ばれる組織でRNA*分解酵素遺伝子を発現させることにより、無花粉スギの作出に成功しました。植物ホルモンのジベレリンを用いて、作出した遺伝子組換えスギの着花を人為的に誘導させたところ、花粉は全く形成しないことが明らかになりました。遺伝子組換え技術による花粉症対策品種の開発は、将来的には花粉症対策の選択肢の一つとなると期待されます。
成果の内容・特徴

研究の背景

林業分野におけるスギ花粉症対策としては、花粉発生源を減少させることが重要です。現在、無花粉スギ等の花粉症対策品種が開発されていますが、これらは地域的に偏りがあります。また、これまで森林所有者等に受け入れられてきた地域になじんだ品種を無花粉化していくためには、交雑育種による膨大な時間を必要とする問題があります。このため、新たな手法の一つとして、遺伝子組換えにより花粉発生を抑制する技術の開発を進めました。遺伝子組換え技術は目的の品種に特定の形質のみを付与できる利点があるため、大幅な育種年限の短縮化が期待できます。

花粉形成抑制技術の仕組み

花粉は、雄花のタペート層と呼ばれる花粉を取り囲む細胞層から養分や物質を受け、発達します(図1)。タペート層が破壊されると、花粉が発達できなくなります。農作物の研究分野では、バルナーゼ*と呼ばれるRNAを分解する酵素の遺伝子を導入し、タペート層で働かせることで無花粉化に成功した研究例があります。この結果は、バルナーゼの働きにより、細胞の活動に必要なタンパク質が合成されず、タペート層が破壊されたためと考えられます。

遺伝子組換えによるスギの花粉形成抑制技術の開発

バルナーゼ遺伝子をスギのタペート層でも働かせるためにはどのようにしたら良いでしょうか?それには遺伝子がいつどこで働くかを制御しているプロモーター*と呼ばれるスイッチを利用します。我々は、スギの雄花だけで働いている遺伝子を単離し、これをCjMALE1遺伝子と命名しました。CjMALE1遺伝子のプロモーターは、雄花のうちのタペート層や将来花粉となる減数分裂細胞で働くことを確認しました。そこで、このプロモーターにバルナーゼ遺伝子を連結したベクター*(図2)を構築し、スギに遺伝子導入しました。20cm程度に成長した苗木に、着花を促進する植物ホルモンであるジベレリンを噴霧したところ、野生型スギと同様に雄花が着花しました(図3)。しかし、花粉形成能力を評価したところ、遺伝子組換えスギは花粉を全く作らないことを確認することができました(図3)。

今後の展望

本研究では、遺伝子組換えによるスギ花粉形成抑制技術を開発しました。スギに意図した形質を期待通りに付与できたことは、花粉症対策だけでなく、新たなスギの品種開発の可能性を示しています。しかし、スギの遺伝子組換え技術はまだ実験段階であり、十分な時間をかけてその効果と安全性の検証を行う必要性があります。

本研究は、林野庁「遺伝子組換えによる花粉発生制御技術等の開発事業」、農林水産省「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」による成果です。
詳しくは森林総合研究所2013年3月21日付けプレスリリースをご覧ください。

*RNA
遺伝子の本体であるDNAを鋳型として作製されたリボ核酸。RNAを基に細胞の活動に必要なタンパク質が合成される。
*バルナーゼ
Bacillus amyloliquefaciensと呼ばれるバチルス菌(枯草菌や納豆菌の類縁菌)が生産するRNAを分解する酵素。
*プロモーター
DNA上に存在している遺伝子発現のスイッチとなる領域。遺伝子が働く時期や場所を制御している。
*ベクター
遺伝子導入する時に、目的遺伝子を増やしたり、導入したり取り扱いやすいようにコンパクトにまとめたDNA。
*バルスター
Bacillus amyloliquefaciensが生産するバルナーゼの働きを阻害するタンパク質。
図表1 235910-1.png
図表2 235910-2.png
図表3 235910-3.jpg
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2013/documents/p66-67.pdf
カテゴリ 育種 品種 品種開発

こんにちは!お手伝いします。

メッセージを送信する

こんにちは!お手伝いします。

リサちゃんに問い合わせる