農地土壌における炭素貯留量算定システムの開発

タイトル 農地土壌における炭素貯留量算定システムの開発
担当機関 (独)農業環境技術研究所
研究期間
研究担当者 白戸 康人
発行年度 2013
要約 [ポイント]
  • 地球温暖化緩和に貢献するため、我が国農地の土壌炭素貯留量を、土壌炭素動態モデルを用いて全国推定できるシステムを開発しました。
  • このシステムは、国の温室効果ガス排出削減目標値の設定や、2015年以降の日本国温室効果ガスインベントリ報告書における農地土壌の炭素ストック変化量の算定に活用される予定です。

[概要]
  1. 我が国の農地、特に水田や黒ボク土畑においても土壌炭素量の変化を精度良く計算できる土壌炭素動態モデルの日本版「改良RothCモデル」を開発しました。
  2. さらに、そのモデルに環境情報のデータや農業活動のシナリオを入力することにより、我が国農地における土壌炭素量の変化を全国規模で計算できるシステムを開発しました。
  3. このシステムによる計算の結果、我が国農地の土壌炭素量は減少しているものの、京都議定書に基づく国際的なルールの下で、農地土壌における二酸化炭素(CO2)吸収(炭素貯留)を期待できることが明らかになりました。
背景・ねらい
農地の生産力を維持・増進するための有機物管理が、近年、地球温暖化の緩和策の一つとして期待されています。それは、農地に投入する有機物の量を増やすことで土壌中の炭素量が増えると、その分、大気に放出されるCO2が減少することになるためで、これを土壌の炭素貯留(*1)と呼びます(図1)。
しかし、土壌に蓄積する炭素量がどの程度変化するかは、同じような管理を行っても、気象条件や土壌の種類など様々な要因が関係するため、場所によって大きく異なる場合があります。そこで、それらの要因を考慮した数値モデルを用いて農地土壌の炭素量の時系列的な変化を計算するシステムを開発しました。

*1土壌の炭素貯留:農地の生産力を維持するには、堆肥や緑肥をすき込むなどの有機物管理が重要です。有機物管理により、土壌に有機物がすき込まれると、土壌有機炭素が蓄積されていきます。
土壌有機炭素は、もともと植物が光合成で大気から吸収した炭素に由来するので、土壌有機炭素が増加するとその分だけ、大気中のCO2が減少することになります。これを「土壌の炭素貯留」と呼びます。
成果の内容・特徴
  1. 土壌炭素の長期的な動態を予測するために英国で開発された土壌炭素動態モデルRothCを、日本において一定量の有機物や肥料を長期間投入し続けた試験(長期連用試験)のデータを用いて検証し、水田や黒ボク土畑が多い日本の農地向けに改良しました(改良RothCモデル(*2))。これにより、管理や場所の条件によって異なる土壌炭素量の時系列的な変化を精度よく予測できるようになりました(図2)。
  2. このモデルを全国規模で適用するため、気象・土壌・土地利用などの環境情報や、農業活動のシナリオを改良RothCモデルに入力して全国の農地における土壌炭素量の変化を100m解像度で計算できる算定システムを開発しました(図3)。
  3. このシステムを用いて計算したところ、1980年には約6億トン賦存していた全国の農地土壌炭素量は、2010年には約5億6千トンに減少したことが示されました。今後も減少傾向は継続すると予測されましたが、堆肥や作物残さなどの有機物投入量を増大させることにより、減少の程度が低くなることが示されました(図4)。これにより、京都議定書に基づくCO2吸収量算定の国際的なルール(*3)の下で、農地土壌におけるCO2吸収(炭素貯留)を期待できることが明らかになりました。


*2 改良RothCモデル:ローザムステッド・カーボン・モデル(Rothamsted Carbon Model: RothCモデル)という英国で開発された土壌炭素動態モデルを、日本各地の水田や畑の有機物や肥料の長期連用試験データを使って検証し、我が国の土壌の実態に合うように改良したものです。特に、既存のRothCモデルでは、湛水条件で有機物の分解が遅くなる水田や、火山灰由来の活性アルミニウムによって腐植が安定な黒ボク土における炭素量の増減をうまく計算できませんでした。そこで、これらの土壌の炭素動態の特性を考慮してRothCモデルを改良した結果、予測精度が大きく向上しました。これを「改良RothCモデル」と呼びます。このモデルは、土壌中の有機炭素を分解率の異なる5つの画分に分けて計算し、気象、土壌、管理の基本的な情報を入力することから、土壌炭素量の変化を1ヶ月単位で計算します。
*3 京都議定書に基づくCO2吸収量算定の国際的なルール:土壌の炭素量が減少すると土壌は炭素を貯留するのではなく、逆に、大気にCO2を放出することになりますが、京都議定書に基づく国際的なルールでは、努力しても土壌の炭素量が減少しやすい農地においてその減少の程度を少なくする取り組みが評価されるよう、基準年と約束期間の土壌炭素変化量を比較する「ネット・ネット方式」が採用されています。このルールにしたがえば、土壌炭素が一貫して減り続けている場合でも、約束期間の土壌炭素の減少量が、基準年の減少量よりも小さく抑えられた場合は、約束期間の土壌炭素変化量(小さなマイナス)から基準年の変化量(大きなマイナス)を差し引いて、プラス(CO2の吸収)と評価されます。
成果の活用面・留意点
  1. このシステムは、温室効果ガス削減目標値の設定や、2015年以降の日本国温室効果ガスインベントリ報告書における農地土壌の炭素ストック変化量の算定に活用される予定です。
  2. 上記のシステムと同様の計算を圃場一筆毎にウェブ上で簡単に行うことができる「土壌のCO2吸収「見える化」サイト」(http://soilco2.dc.affrc.go.jp)を開発・公表しました。このサイトでは、対象とする農地を地図上で選び、栽培する作物や栽培管理方法をメニューから選択するだけで、農家、生産者団体、自治体などが、その農地の土壌炭素量の変化を簡単に試算できます。
  3. 今後は、CO2の吸収・排出による土壌炭素の増減に加え、農地由来の他の温室効果ガスであるメタン(CH4)および一酸化二窒素(N2O)の影響を加味した3つの温室効果ガスの総合的な評価、さらには、営農の過程で使用される作業機械や資材に関わる化石燃料由来のCO2排出もあわせた総合的な評価についても研究を進めていきます。
図表1 236373-1.jpg
図表2 236373-2.jpg
図表3 236373-3.jpg
図表4 236373-4.jpg
研究内容 http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/result/result30/result30_02.html
カテゴリ 肥料 栽培技術 水田 ストック

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