水稲幼苗の低気温障害に先立ち硝酸と亜硝酸が葉に蓄積する

タイトル 水稲幼苗の低気温障害に先立ち硝酸と亜硝酸が葉に蓄積する
担当機関 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター
研究期間 2005~2013
研究担当者 鈴木健策
発行年度 2013
要約 水耕栽培の水稲(あきたこまち)の幼苗の地上部だけを冷やすと、葉にまず硝酸が蓄積し、その減少に伴い亜硝酸が蓄積する。亜硝酸が蓄積した葉は光合成障害を起こし、その後脱色、枯死等の可視的障害を起こす。
キーワード イネ、気温・地温バランス、低温障害、硝酸、亜硝酸
背景・ねらい 寒冷地の水稲作では育苗期、移植活着期、直播栽培の苗立ち期等に低温による生育障害がしばしば発生し、時には葉の萎凋や黄化、枯死に至る。これらの低温障害と根の活性に密接な関係が示唆されるにも関わらず関係は不明である。水稲幼苗の地上部だけを冷やすと光合成活性の高い葉が枯れる(2007年研究成果情報)。その原因は、光化学系IIのQA–QB間(除草剤DCMU作用部位)で電子伝達が完全に遮断され過剰エネルギーが蓄積するためと説明できる(2012年研究成果情報)。本研究ではそのQA–QB遮断の原因を明らかにすることで、この低気温障害と根の活性の関係解明の手掛かりを得る。
成果の内容・特徴
  1. この低気温障害は、水耕液が低濃度の硝酸とカリウム及び微量の鉄を含む場合に顕著である(図1)。また窒素飢餓後の幼苗ほど症状が顕著である(Suzuki et al. 2013)。
  2. 通常の葉2では明期にNH4+、暗期にNO3の含量が増加する日周変動を示す(図2A)。ところが気温のみを10°Cに下げると(地温25°C)、最初の明期にNO3が蓄積し(最大で通常の葉の約2倍)、暗期に入ると急速に減少する。それに対応して通常は検出されないNO2が蓄積し、次の明期に急減する(図2B)。一方気温・地温共10°Cの場合は葉のNO3含量が極めて低く(2 µmol g–1 FW未満、最大値間の比較では「気温のみ10°C」の場合の7%未満)、NO2は検出されない。
  3. 気温のみ10°Cの場合のNO2蓄積パターンはクロロフィル蛍光パラメータ「Excess」の変動パターン(図2C)とよく似ている。このExcess値の増加は光化学系IIのQA–QB間の電子伝達の遮断(図3)に由来する過剰エネルギー蓄積を、その後の減少はQAへの電子供給能の喪失を反映する。
  4. これらのことから障害発生のしくみは次のように説明できる(図3)。(1)低気温(高地温)では、根から葉へNO3の転流が高気温の場合と同様に起こる。(2)冷えた葉ではNO2からNH4+への還元が進ないため、まずNO3が蓄積する。(3)NO2も蓄積するようになる。(4)QA–QB間の電子伝達能が失われる3。そこに光が当たると図2の(5)~(9)を経て生体膜損傷や細胞破壊が起こる((4)以降は2012年の研究成果情報)。
成果の活用面・留意点
  1. 生育初期の低温障害軽減のための施肥、温度管理の参考となる。なお、この障害は葉面温度12°C以下で顕著となる。一方、地温は根からの養水分吸収能を反映し、異なる品種特性を示す可能性がある。また、育苗中のムレ苗は硝酸存在下・低気温(高地温)で発生しやすい等、発生環境や症状がよく似る(野副・吉田、東北農業研究43, 21–22, 1990)。
  2. 人工気象室内[12時間明期(500 µmol m-2 s-1)25°C:12時間暗期20°C]、水耕栽培14日目の3葉期の「あきたこまち」幼苗。「低温処理なし」は処理期間中もこの条件。
  3. 図3の(4)はNO2の直接作用とは考えにくく、NO(一酸化窒素)の関与が疑われる。
図表1 236665-1.jpg
図表2 236665-2.jpg
図表3 236665-3.jpg
図表4 236665-4.jpg
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/tarc/2013/tarc13_s03.html
カテゴリ 病害虫 育苗 温度管理 直播栽培 除草剤 水稲 水耕栽培 施肥 品種

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