森林によるオゾン吸収量を雨の日でも推定できる新たな手法

タイトル 森林によるオゾン吸収量を雨の日でも推定できる新たな手法
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 北尾 光俊
山野井 克己
安田 幸生
深山 貴文
発行年度 2014
要約 大気汚染物質であるオゾンによる森林への影響を解明するため、従来は困難であった降雨時及び落葉期のオゾン吸収量を推定する新しい手法を開発し、森林へのオゾン影響を評価しました。
背景・ねらい 大陸からの越境大気汚染により、我が国の大気オゾン濃度は年々上昇する傾向にあります。大気汚染物質であるオゾンは葉に吸収されることで光合成を低下させ、森林の二酸化炭素吸収を妨げます。森林へのオゾン影響の評価のためには森林レベルでのオゾン吸収量の推定が必要です。しかし、従来の手法では、葉が濡れている時や樹木の一部が落葉している場合には正確な吸収量の推定ができませんでした。本研究では、フラックスタワーで観測された二酸化炭素吸収速度のデータを新たに用いることで、従来は困難であった降雨時および一部の樹木が落葉している時期のオゾン吸収量を推定する手法を開発し、森林へのオゾン影響を評価しました。
成果の内容・特徴

成果

大気汚染物質であるオゾンの濃度は世界的に上昇する傾向にあります。我が国においても、東アジアの急速な社会経済の発展に伴い、大陸からの長距離越境汚染によると考えられる光化学スモッグの発生など、オゾン濃度の上昇が再び問題となっています。オゾン濃度の上昇は光合成に悪影響を及ぼし、植物の成長を低下させることが報告されています。その一方で、森林が被るオゾンの影響については研究があまり進んでいません(図1)。
オゾンは、植物の葉の表面にある小さな穴(気孔)を通って葉の中に吸収されることで光合成に悪影響を及ぼします。一方で、気孔が閉じている時はオゾンの吸収量は少なく、光合成への影響は小さくなります。そのため、森林へのオゾン影響を正確に評価するためには、森林上空のオゾン濃度と気孔の開き具合から、森林が吸収したオゾンの量を正確に知る必要があります。
これまでも、森林全体の気孔の開き具合(気孔コンダクタンス)を調べる手法はありましたが、従来使われてきたペンマン・モンティス法では、雨が降って葉が濡れている時や、森林の一部の木が落葉している時には気孔コンダクタンスを正確に推定できないという問題がありました。そこで、従来の方法に加えて、気象条件(二酸化炭素濃度と相対湿度)と森林の二酸化炭素吸収速度(総一次生産量)を考慮したBall-Berry の気孔反応モデルを使うことで、雨の日や森林の一部樹木が落葉している時期の気孔コンダクタンスを推定する新しい手法を開発しました。
京都府にある関西支所山城試験地では、コナラ(落葉広葉樹)とソヨゴ(常緑広葉樹)が優占する暖温帯林が広がっています(図2)。従来の方法で推定すると、コナラが落葉している時期に森林全体の気孔コンダクタンスが高いという不自然な推定結果が出ます。新しい手法では、4 月からのコナラの開葉に合わせて気孔コンダクタンスが上昇し、10 月の落葉に合わせて低下するという樹木の季節性をよく現した正確な推定が可能となりました。
この新しい手法を用いて、森林総研が蓄積してきたフラックス測定データから、森林レベルでのオゾン吸収量と光合成による二酸化炭素吸収速度との関係を調べました。2004、2005、2009 年の平均オゾン濃度は27、30、42 ppb と徐々に上昇しており、開葉が始まる4 月から積算した森林のオゾン吸収量(積算オゾン吸収量)もオゾン濃度の上昇にともない多くなりました。各月ごとにオゾンの影響を比較したところ、オゾン吸収量が多い年には、9 月以降の二酸化炭素吸収速度が低くなる傾向が見られました(図3)。森林レベルで、オゾンによる葉の老化促進が生じている可能性があります。森林の二酸化炭素吸収機能を十分に発揮させるためには、越境大気汚染によるオゾン濃度の上昇を防ぐ取り組みが必要です。

本研究は環境省環境研究総合推進費「葉のオゾン吸収量に基づいた樹木のオゾン影響評価に関する研究(5B-1105)」による成果です。詳細については、Kitao et al.(2014) Environmental Pollution 184, 457-463 をご覧ください。
図表1 236754-1.jpg
図表2 236754-2.jpg
図表3 236754-3.jpg
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2014/documents/p34-35.pdf
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