タイトル | 林業地域で生物多様性を保全する |
---|---|
担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
正木 隆 五十嵐 哲也 永光 輝義 菊地 賢 神崎 菜摘 長谷川 元洋 加賀谷 悦子 滝 久智 升屋 勇人 |
発行年度 | 2014 |
要約 | スギやヒノキの人工林が卓越する林業地で生物多様性を保全するための広葉樹林の配置指針を提示しました。多様な環境(立地、基質等)に広葉樹林を残すとともに、100ha規模のまとまった広葉樹林を確保することも必要と考えられました。 |
背景・ねらい | スギやヒノキの人工林が卓越する林業地で生物多様性を保全するための広葉樹林の配置指針を提示しました。生態系の健全性を指標する生物群として、土壌動物(落葉分解、物質循環の円滑化)、微生物(病虫害の発生抑制、倒木の分解)、ハナバチ類(花粉運搬、種子生産への貢献)、果実食鳥類(種子運搬、天然更新の促進)、高木種(森林生物の生活基盤)の5つを選びました。土壌動物相や微生物相の多様性保全のためには、多様な環境(立地、基質等)に広葉樹林を残すことが必要でした。一方、ハナバチ類や鳥類の多様性保全や広葉樹林の持続的な更新のためには、概ね100ha 規模のまとまった広葉樹林を残すことが必要と考えられました。 |
成果の内容・特徴 | 研究の背景スギやヒノキの人工林が卓越する林業地で生物多様性を保全し生態系の健全性を確保するためには、広葉樹林も要所に配置することが必要です。そこで、林業地域において生物多様性を保全するための広葉樹林の配置について指針を提示することを目的に研究を行いました。指標生物群生態系の健全性と密接に関連する5つの生物群を対象に研究を行いました。土壌動物=落葉の分解、物質循環の円滑化 微生物=病虫害の発生抑制、倒木の分解 ハナバチ類=花粉を運び種子生産を促進 果実食鳥類=種子を運び天然更新を促進 高木種=森林の生物の生活基盤 人工林と広葉樹林がモザイク状に分布する北茨城の約15,000ha を調査地として選び、その中の広葉樹林で調査を行いました。 土壌動物・微生物小型土壌動物のササラダニや中型土壌動物のトビムシの遺伝構造や分布に、周辺広葉樹林面積の影響はみられませんでした。空中浮遊菌の分析からも、周辺の広葉樹林面積と微生物の種数・頻度・多様度との間に一定の関係は認められませんでした。土壌動物相や微生物相の多様性保全のためには、面積の広さよりもむしろ多様な環境(立地、基質等)に広葉樹林を残すことが必要と考えられます。ハナバチ類および鳥類ハナバチの数量は周辺5 ~ 10ha 内の広葉樹林面積、および蜜源となる樹種の林分内本数と正に相関していました(図1)。ハナバチが花粉を媒介するカスミザクラの種子の遺伝分析から、周辺5ha 以内の広葉樹林面積が大きいと種子の充実率が高く、さらに周辺100 ~ 500ha以内の広葉樹林面積が大きいと交配の多様性も高いことがわかりました(図2)。繁殖期の鳥類の個体数および種数と周辺広葉樹林面積との関係を解析した結果、周辺100ha 内の広葉樹林面積と正の相関がありました(図3)。一方、渡り期については一定の傾向がみられませんでした。 高木種の更新林内に生育している高木種の稚樹(樹高2m 未満)のうち、外部からの種子由来と考えられるものの分布は、周辺50 ~ 100ha の広葉樹林面積と正の相関がありました。周辺の広葉樹林の減少とともに減っていたのは重力散布型および風散布型の樹種の稚樹でした(図4)。生物多様性を保全するための広葉樹林の配置以上の結果から指針をまとめると、微生物や土壌動物の多様性の保全のためには多様な環境を含む広葉樹林が必要な一方、ハナバチ類や鳥類の多様性保全や広葉樹林の持続的な更新のためには、概ね100ha 規模のまとまった広葉樹林が必要と考えられます。本研究は交付金プロジェクト「林業地域の生物多様性保全に必要な広葉樹林分の面積と配置の指針の提示」(平成23 ~ 25 年度)に基づく成果です。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2014/documents/p54-55.pdf |
カテゴリ | 病害虫 繁殖性改善 |