タイトル | 環境にやさしいセルロースナノファイバー製造技術 ―叩き潰さずにほぐします― |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
林 徳子 下川 知子 渋谷 源 野尻 昌信 真柄 謙吾 池田 努 戸川 英二 久保 智史 |
発行年度 | 2015 |
要約 | 酵素処理と機械処理とを併用し温和な条件でセルロースナノファイバー(CNF)を創る方法を開発しました。この方法でタケから作ったCNFは、従来のCNFにはない面白い性質を持つことが分かってきました。 |
背景・ねらい | 植物細胞の骨格は、太さ4 ナノメートルという細いセルロース繊維が束になったものでできています。セルロース繊維はこれまでも紙などに利用されていましたが、繊維の幅をナノオーダーまで細くすると、表面積の増加、透明性など従来のセルロースでは得られない新しい性質が生まれることが分かってきました。私たちは、この極細の繊維(セルロースナノファイバー:CNF)をつくるために酵素処理と機械処理とを併用する方法を開発しました。この方法では、50℃くらいの温和な条件でナノファイバーを生産することができます。タケを原料にこの方法でCNF を作ると、ゲル化しやすい、カーボンナノファイバーと混ざりやすいといった、これまでのCNF にはない性質が現れることが分かってきました。 |
成果の内容・特徴 | セルロースナノファイバーとは セルロースは、ヘミセルロース、リグニンと並んで植物がつくり出す主要な細胞壁成分の一つです。植物の細胞壁では、まっすぐなセルロース分子の鎖が規則的に並んで互いに結びついた「ミクロフィブリル」と呼ばれる約3 ~ 4 ナノメートル幅の極細の繊維を構成し、それが束となって細胞壁の骨格を構成しています(図1)。植物細胞壁を鉄筋コンクリートに例えると、ミクロフィブリルは鉄筋に相当し、極細の繊維でありながら、鋼鉄に匹敵する強さを持つといわれています。セルロースナノファイバー(以後、CNF)とは、ミクロフィブリルを1 本から十数本の束になるようにほぐした繊維です。 しかし、セルロースは固まりやすい性質を持っており、木材からリグニンを取り除いてセルロースを取り出したり、乾燥したりすることによって、ミクロフィブリル同士が複雑に絡み合って固まります。この固まりをほぐすためには、大きなエネルギーが必要で、現在は、ノズルからの高圧噴射など特殊で強力な機械を用いた物理的な破砕処理や、酸化触媒を用いた化学的処理によってほぐしています。 セルラーゼをセルロースのナノ化に使う セルラーゼは、セルロースを分解する加水分解酵素の総称です。複雑な構造のセルロースを単糖類のグルコースにまで分解するためには様々の作用が必要で、それぞれの作用をつかさどる様々な種類のセルラーゼがあります。そこで、これらの酵素の中からミクロフィブリル間に作用し、ほぐす性質の強い酵素を選択することでCNFを生産しやすくしました。セルラーゼを用いた反応は、50℃程度の温和な条件下で反応を行うことができ、特別な薬品などを使わないため、環境への負荷が低い方法です。 機械処理と酵素処理を同時に行う 通常の粉砕機処理では、セルロースが叩き潰されるだけでほぐれません。しかし、処理時に水を入れ、セルラーゼを投入することで、通常の粉砕機でもセルロースを微細なCNF にまでほぐすことができます(図2)。こうしてつくられたCNF は、枝分かれが少なく棒状です。 また、広葉樹のパルプや竹を原料として、本技術で調製したCNF には、ヘミセルロースが約2 割含まれています。特に、竹のCNF はわずか1%以下の低濃度でもゼリー状になります(ゲル化、図3c)が、これはヘミセルロースがあるためと考えられます。また、タケCNF にはヘミセルロースが残っていることでカーボンナノチューブと良く混ざり合うことも分かってきました。このような性質を活かした新しい素材としての利用開発が期待できます。 本研究は、森林総合研究所交付金プロジェクト「バイオリファイナリーによる竹資源活用に向けた技術開発」(平成24 ~ 26 年度)等による成果です。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2015/documents/p34-35.pdf |
カテゴリ | 乾燥 |