乾燥常緑林では高木が水循環に大きな役割を果たす

タイトル 乾燥常緑林では高木が水循環に大きな役割を果たす
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 玉井 幸治
清水 貴範
飯田 真一
清水  晃
壁谷 直記
発行年度 2015
要約 カンボジアの乾燥常緑林の蒸散量と樹木の葉温をモデルシミュレーションで推定したところ、高木が蒸散量を増やし地表面温度を下げることに大きく貢献することが分かりました。
背景・ねらい 森林からの蒸散量の減少が大気中の水蒸気量を減少させ、ひいては降水量を減少させている可能性のあることが指摘されています。カンボジアの森林では、乾季にほとんど雨が降らなくても、樹木は土壌深くに保持されている水分を利用して蒸散を続けていることを明らかにしてきました。しかし、このような森林でも、土壌深くまで根を伸ばした大きな樹木(高木)が伐採されると乾季に蒸散を維持できなくなる可能性があります。そこで、カンボジアの森林における高木の伐採が蒸散量変化に及ぼす影響をシミュレーションモデルで推定したところ、乾期の蒸散量が23%減少し、葉温(地表面温度)も最大5℃程度増加するという結果が得られ、高木の重要性が明らかになりました。
成果の内容・特徴 森林伐採と降水量
陸地に降る雨は、樹木など植物の蒸散や海や湖からの蒸発により、大気へと戻っていきます。大気に戻った水蒸気は、再び雨となって地表に降り注ぎます(図1)。近年、アマゾンやタイでは降水量の減少が報告されていますが、森林が減少し、森林からの蒸散により大気へと戻る水蒸気量が減少していることが、その一因であるともいわれています。
インドシナ半島の南部に位置するカンボジアには、森林が比較的多く残っていましたが、近年、急速に森林伐採と農地、ゴム林などへの転換が進んでいます(図2)。そのため、アマゾンやタイと同様に、降水量の減少が危惧されています。そこで、カンボジアの常緑林における伐採後の蒸散量の減少とそれに伴う林冠の葉温(樹木の葉や枝が茂っている部分の温度のことで気象学では「地表面温度」として扱います)の上昇量を予測しました。

カンボジアの乾燥常緑林における水循環の特徴
カンボジアには乾季と雨季があります。乾季は11 月頃から翌年の4 月頃まで続き、その間に雨はほとんど降りません。カンボジアには、一年を通じて葉をつけ、蒸散と光合成を行っている乾燥常緑林(乾季をもつ地域に分布している常緑林を乾燥常緑林といいます)が広く分布しています。乾季でも盛んに蒸散を行えるのは、大きな樹木(高木)が根を土壌深くまで伸ばし、土壌深部に蓄えられた水分を利用できるためと考えられています。深さ9m の土壌中にも樹木の根が伸びていることが報告されています。

高木の伐採による蒸散量と葉温(地表面温度)の変化
高さ20m 以上ある高木は、土壌深部の水分を利用することができます。しかし、高さ数m の低木は、根が浅く深部土壌中の水分を利用できないため、乾季の蒸散活動が低下することが観測されています。そのため、乾燥常緑林の高木が伐採されると、蒸散によって大気へ戻る水蒸気量が減少し、それに伴う気化熱の減少により葉温(地表面温度)も上昇すると考えられます。
乾季と雨季のそれぞれ10 日分の気象や土壌水分データなどから、森林が現状で維持された場合と高木が伐採された場合の蒸散量と葉温(地表面温度)とをシミュレーションモデルによって解析しました。その結果、高木がなくなることによって乾季の蒸散量は約23% にまで減少し(図3)それに伴い葉温(地表面温度)も平均で約2℃程度、最大で4 ~ 6℃程度上昇するという結果が得られました(図4)。
カンボジアの森林地域での蒸散量の減少と葉温(地表面温度)の上昇は、雨を降らせる積乱雲などの発生に大きな変化をもたらすと考えられます。この結果は、カンボジアを含むインドシナ半島の降水量の変動を予測するために貢献します。

本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究(平成23 ~ 26 年度)「アジア地域熱帯林における森林変動の定量評価とシミュレーションモデルの開発」による成果です。
図表1 236948-1.jpg
図表2 236948-2.jpg
図表3 236948-3.jpg
図表4 236948-4.jpg
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2015/documents/p46-47.pdf
カテゴリ 乾燥

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