タイトル |
夜間遠赤色光照射はニホンナシの枝伸長停止期と花芽形成期を早める |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 |
研究期間 |
2009~2013 |
研究担当者 |
伊東明子
齋藤隆徳
西島隆明
森口卓哉
|
発行年度 |
2014 |
要約 |
「幸水」に夜間遠赤色光照射処理をすると、夜間無照射および夜間赤色光照射に比較して、花芽形成を抑制する主働遺伝子のTerminal Flower1オルソログの発現が抑制され、枝伸長停止期および花芽形成期が早期化する。また最も有効な波長は約730nmである。
|
キーワード |
ニホンナシ、花成、枝伸長、光、LED
|
背景・ねらい |
近年高性能化が進む発光ダイオード(LED)照明は、単波長の光を高いエネルギー効率で照射できる特長があり、農業分野での利用についても検討が進んでいる。一方、ニホンナシは枝伸長が停止する夏頃に花芽形成が開始するが、近年、気候温暖化に伴う夏から秋季の高温が原因で枝伸長停止期が遅れ、結実数が不安定となる傾向が強まっている。そこで本研究では、ニホンナシの花芽形成における光の影響を解明し、省力で安定的な結実管理技術開発の一助とする。
|
成果の内容・特徴 |
- 開花(萌芽)前のニホンナシ「幸水」ポット樹を、一日の日照時間を8時間に制限したガラス室(温度なりゆき)に搬入し、暗期相当期の16時間に1.無照射、2.赤色光照射、3.遠赤色光照射、を行うと、赤色光処理により枝伸長停止期が遅れる一方、遠赤色光照射により枝伸長停止期が早まる(図1)。また遠赤色光照射により頂芽の花芽分化開始も早まり、光照射開始約4ヶ月後には14~40%の花芽分化率が観察される(表1)。枝伸長停止および花芽分化の早期化に効果がある波長は730nm付近である(表1)。
光照射期間中、頂芽においては花芽形成抑制の主働遺伝子であるTerminal Flower1オルソログ(PpTFL1-1a, 1-2a)の発現が遠赤色光照射により減少し、赤色光照射により増加する(図2)。また、同時に遠赤色光照射により花器官形成に関与するLEAFYオルソログ(PpLFY2a)およびAP1オルソログ(PpMADS2-1a)の発現が増加する(図2)。 - 圃場植栽のニホンナシ「幸水」の腋花芽形成数は、開花前から落葉期までの期間、夜間に遠赤色光照射処理を行うことにより増加するが、日没から日の出までの夜間連続照射より、日没から日没後3~4.5時間の短い照射の方が効果が高い。また、日没後3~4.5時間の照射により、猛暑で花芽形成数が少ない年(2010年、2013年)でも例年並みの腋花芽形成が認められる。しかし、花芽形成数が例年並みの年(2011年、2012年)には、更なる促進効果は認められない(表2)。
- 以上より、夜間遠赤色光処理は、花芽形成関連遺伝子の発現の制御を通じてニホンナシ「幸水」の花芽形成を促進する効果がある。また圃場で照射する場合、猛暑等で花芽着生が減少する条件でも一定数の花芽着生を維持する効果があると考えられる。
|
成果の活用面・留意点 |
- 4カ年の試験から、圃場植栽のニホンナシ「幸水」の花芽形成率促進には、730nm付近の遠赤色光を、枝発生面の受光量1~2μmol/s/m2の光強度で、開花期(4月中旬頃)から落葉開始期(9月下旬から10月上旬頃)にかけて日没後3~4.5時間照射する必要があると考えられる。しかし上に示した光強度を実現するには、現在入手可能な遠赤色光源では出力が十分でなく、相当多数の光源を配置する必要があり、栽培現場での利用はコスト的に難しい。
|
図表1 |
 |
図表2 |
 |
図表3 |
 |
図表4 |
 |
研究内容 |
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/fruit/2014/fruit14_s19.html
|
カテゴリ |
コスト
収量向上
|