タイトル |
病原性大腸菌ゲノムに多様性をもたらす要因の解明 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 |
研究期間 |
2012~2014 |
研究担当者 |
楠本正博
深水大
吉田英二
山本史子
岩田剛敏
大岡唯祐
小椋義俊
秋庭正人
林哲也
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発行年度 |
2014 |
要約 |
腸管出血性大腸菌(EHEC)O157においてゲノムの多様化を引き起こす因子IEEは、豚から分離される毒素原性大腸菌(ETEC)にも分布している。ETECにおいても、EHECと同様にIEEを介したゲノム多様化機構が存在する。
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キーワード |
毒素原性大腸菌、ゲノム、多様性、IEE、挿入配列
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背景・ねらい |
挿入配列(IS)は最も単純な転移因子であり、細菌ゲノムに広く分布する。腸管出血性大腸菌(EHEC)O157 において、IEE(IS excision enhancer)はISの切り出しを促進し、ゲノムの多様化につながる様々なゲノム欠失を引き起こす。 これまでにIEEは幅広い細菌種で発見されているが、IEE産生遺伝子(iee遺伝子)を保有する大腸菌のほとんどがEHECであることが知られている。そこで本研究では、ゲノムの多様性を利用した病原性大腸菌の簡易診断技術の開発に向けて、動物から分離された非EHEC病原性大腸菌についてiee遺伝子の保有状況を調査し、IEEおよびISを介したゲノム多様化機構の普遍性を明らかにする。
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成果の内容・特徴 |
- 大腸菌症罹患豚から分離される様々な血清型の非EHEC大腸菌の中で、毒素原性大腸菌(ETEC)O139およびO149の一部がiee遺伝子を保有する。これらのiee遺伝子保有株をmultilocus sequence typing法により型別すると、O139はsequence type(ST)42、O149はST100とST2273に分類される。ST42、ST100、ST2273は遺伝学的に離れており、また、iee遺伝子を保有するSTと保有しないSTが系統樹上で混在することから、大腸菌においてiee遺伝子の水平伝播が起こっていると考えられる(図1)。
- ETECにおいて、iee遺伝子はEHECと同様に約90kbの可動性遺伝因子SpLE1に存在している。図2に示すように、EHEC O157とETEC O139およびO149でSpLE1の塩基配列が極めて高度に保存されていることは、iee遺伝子がSpLE1を介してEHECとETECの間で伝達されることを示唆する。
- iee遺伝子を保有するETECはIEEによる切り出しの対象となるIS629をゲノム上に複数保有しており、その数および分布パターンは菌株により多様である(図3)。IS629はETEC O139およびO149のゲノムにおいて活発に転移しており、EHEC O157と同様に、IEEとの協働によりゲノムの多様化を引き起こしていることが示唆される。
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成果の活用面・留意点 |
- 現在、ETECの型別にはパルスフィールドゲル電気泳動法が多用されるが、本法は時間と手間がかかることが指摘されている。ETECでもIEEおよびISを介したゲノムの多様化が起こっていることから、ゲノム上のIS分布の多様性を利用することで、迅速簡便な新しい菌株型別技術を開発できる可能性がある。
- EHECの主な保菌動物は牛と考えられているが、豚からO157など主要なEHECが分離された事例も知られており、豚の腸管内でEHECとETECの間でのSpLE1を介したiee遺伝子の伝達が行われる可能性がある。異なる種類の病原性大腸菌が互いに遺伝子をやり取りすることで多様化あるいは強毒化すると考えられることから、今後は牛だけでなく豚にも着目し、EHECおよびETECの保有状況を注視する必要がある。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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研究内容 |
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/niah/2014/niah14_s20.html
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カテゴリ |
簡易診断
豚
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