環境保全型農業の取り組み効果を示す農業に有用な生物多様性指標

タイトル 環境保全型農業の取り組み効果を示す農業に有用な生物多様性指標
担当機関 (国)農業環境技術研究所
研究期間
研究担当者 田中 幸一
馬場 友希
発行年度 2015
要約 [ポイント]

  • 農耕地における生物多様性を表すために、農業に有用な生物の中から指標生物を選びました。
  • 指標生物を利用した簡便な調査法や評価法を解説したマニュアルを刊行し、環境保全型農業の取り組み効果を評価するために自治体などが利用しています。
  • この成果は、生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)、国連持続可能な開発会議(リオ+20)、第 3 回生物の多様性を育む農業国際会議等海外に向けても紹介しました。

[概要]

  1. 全国の水田および果樹・野菜などのほ場において、生物多様性を評価するために、農業に有用な生物(*1)の中から、全国共通および 6 地域の指標生物を選びました。
  2. 選定した指標生物ごとに適切かつ簡便な方法で調査し、それらの個体数をスコアで類型化し、複数の指標生物のスコアを合計した総スコアから、生物多様性を高めるなどの環境保全型農業(*2)の取り組み効果が評価できます。
  3. 選んだ指標生物と調査法・評価法を解説したマニュアル(平成 24 年 3 月刊行)は、環境保全型農業の取り組み効果が客観的に評価できることを紹介しています。


*1  農業に有用な生物:農業に有用な生物には、さまざまありますが、ここでは農業害虫の天敵となる捕食性や寄生性の昆虫・クモ類を主な対象としました。その理由は、このグループが多数の種を含むためにグル―プ自体の多様性が高いこと、食物連鎖の中間に位置するため、下位の餌(小型の昆虫など)や上位の捕食者(鳥、哺乳類など)の多様性を反映できることです。
*2  環境保全型農業:農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和等に留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料・農薬等による環境負荷の軽減、さらには農業が有する環境保全機能の向上に配慮した持続的な農業(農林水産省「環境保全型農業推進の基本的考え方」平成 16 年)。一般に、環境にやさしい農業ともいわれています。
背景・ねらい 化学合成農薬や化学肥料などの過度な使用による環境への負荷を軽減した環境保全型農業の推進が、各地で図られています。環境保全型農業は、農地やその周辺に住む生物や生物多様性に良い効果をもたらすと期待されるものの、具体的な評価方法はありませんでした。農業生態系における生物多様性を知るには、本来そこに住む生物をすべて調査すべきですが、実際には困難です。そこで、環境保全型農業の取り組み効果をよく表し、分かりやすく、調査しやすい指標生物と、それらを調査する簡便な方法や、調査結果から農法の効果を客観的に評価する方法を開発する必要があります。
成果の内容・特徴
  1. 農業に有用な生物を対象として、水田および果樹・野菜などのほ場に分けて、指標生物を選びました。指標生物は地域ごとに異なりますが、全国で共通して使える指標生物も明らかにすることができました(表1、写真1)。
  2. 生物ごとに生活史や生息場所が異なるため、それぞれの指標生物に適した、簡便な調査法を決めました(表2、写真2)。
  3. 指標生物の個体数をもとにして、農地における生物多様性を評価する基準となるスコア(点数)で類型化する方法を決めました(表2)。この方法で調査すると、慣行農業に比べて、環境保全型農業(有機農業および減農薬)では指標生物の個体数が多いことが示されました(図1)。
  4. スコアを合計した総スコアから、環境保全型農業の取り組み効果を評価する目安を決めました(表3)。
  5. 指標生物とその調査法・評価法を詳しく解説したマニュアルを、平成 24 年 3 月に刊行し、PDF 版は農業環境技術研究所のホームページからダウンロードすることができます(URL:http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/shihyo/)(写真3)。このマニュアルを用いることにより、環境保全型農業の取り組み効果を、分かりやすく調べやすい指標生物を使って、科学的根拠に基づき客観的に評価することが可能になりました。
  6. この研究は、独立行政法人(農業生物資源研究所、農業・食品産業技術総合研究機構)、大学、都道府県の農業試験研究機関と共同で実施して、農業環境技術研究所が取りまとめたものです。
成果の活用面・留意点 このマニュアルの刊行について農林水産省からプレスリリースされたことで、新聞記事等に取り上げられました。また、三重県御浜町の尾呂志地区で、環境保全型農業に取り組んでいる農家グループでは、このマニュアルに基づいて生物調査を行いました。その結果、総合評価のランクが A となったので、それを示すシールをお米に貼って販売し、好評を得ています。このように、単なるイメージではなく、科学的根拠に基づいた客観的評価を示すことによって、地域ブランドとしての信頼性を増すことができます。
また、自治体、JA、外食産業などでは、マニュアルを用いて、環境保全型農業の取り組みを評価する事例があります。今後、国や地方による農業施策の効果を評価するために用いることも期待されます。さらに、主たる成果である水田における農法と生物多様性との関連性および指標生物が選定されたことについて、生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)(2010 年)、国連持続可能な開発会議(リオ+20)(2012年)、第 3 回生物の多様性を育む農業国際会議(2014 年)等海外に向けても積極的に発信しました。
今後は、昆虫・クモ類など以外に、生産者だけでなく消費者にも馴染みやすい指標生物と評価法の開発が求められており、指標生物を植物や鳥類などに広げた研究を進めています。
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研究内容 http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/result/result32/result32_16.pdf
カテゴリ 有機農業 有機栽培 土づくり 肥料 病害虫 害虫 水田 地域ブランド 農薬 評価法

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