森林の持続性を物質循環の指標から評価する

タイトル 森林の持続性を物質循環の指標から評価する
担当機関 (国)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 平井 敬三
大貫 靖浩
野口 享太郎
三浦 覚
山田 毅
谷川 東子
稲垣 昌宏
発行年度 2016
要約 森林は外部への物質の流出を防ぐ機能をもち、さまざまな物質を森林内部で循環させることで、樹木の成長に必要な養分を得ています。このような森林内の物質循環の状態をよくあらわす評価指標を作りました。
背景・ねらい 日本では、積極的な植林活動によって増加した人工林の森林蓄積量を背景に、林業が盛んになりつつあります。森林は、農地のように施肥によって養分を補うことなく森林内部で物質が循環しています。したがって、生産力の基盤となる土壌を保全し、森林生態系での物質の循環を適切に維持して、系外への流出を少なくすることが持続的な林業活動を支えるために重要です。そこで、これまでの関連研究を整理して、森林の物質循環の状態を評価する16の指標を作りました。たとえば、林床被覆率は土壌侵食、樹木の養分利用効率は土壌生産力の状態を示す指標として有効です。これらの指標を尺度にすれば、物質循環上、森林が持続可能で健全な状態にあるか判断することができます。
成果の内容・特徴 物質循環とは
森林生態系では、炭素や樹木の成長に必要な窒素やリンといった養分など、さまざまな物質が循環しています。これらの物質は、大気や雨に含まれて森林外から入ってくるもの、斜面や渓流を通じて系外に出て行くもの、落ち葉として樹木から地表へ戻されるもの、土壌で分解されて無機物となり樹木に再び吸収されるものなどがあります。これらの動きを森林の「物質循環」と呼びます。

なぜ物質循環の状態を診断するのか?
日本の森林は、戦後から経済発展期の積極的な植林とその後の保育によって、全体として森林蓄積量が増加しています。今後は充実した森林資源を積極的に利用し、山村地域を含む森林・林業を活性化していくことが重要です。一方、戦時中など過去に過度に森林を伐採利用した反省にたって、森林を適切に管理して、森林資源を持 続的に利用する必要があります。
樹木の成長を支え、その基盤となる養分や水分を供給する物質循環は、木材生産、気候の緩和、レクリエーションなどとともに、森林の生態系サービスのうち「基盤サービス」とよばれる機能を果たしています。その機能を十分に発揮させるためには、基盤となる「土壌」を保全し、“ 森林の物質循環がどのような状態にあるか? ”をよく知ることが必要です。

物質循環指標の作成と活用
これまでの研究成果や全国的な森林生態系多様性基礎調査の膨大なデータ等を解析して、物質循環の特徴をあらわす項目を検討し、16の指標を選び出しました。それらを機能毎に整理すると、「土壌侵食」、「土壌生産力」「環境変動」の3つに大きくまとめられました(表 1)。ここでは、「林床被覆率」と「養分利用効率」を例に詳しくみることにします。
林床被覆率が大きいほど土壌侵食量は小さくなるので(図 1)、土壌侵食の程度を表す指標として有効であることがわかります。光環境の改善によって林床植生を繁茂させることが可能ですので、林床被覆率は森林施業によって管理することができます。これによって系外への物質の流出を防ぐことができます。
樹木の養分蓄積量は、地上部バイオマス量が同じでも、樹種によって異なり、ユーカリは他の樹種に比べて少な い窒素量で、ユーカリとアカシア類は広葉樹に比べて少ないリン量で同じ程度成長しており、養分利用の効率が高いことを示しています(図 2)。今回、養分利用効率は熱帯性の造林樹種で検討しましたが、国内樹種を対象に調べることで、樹体内に窒素やリンを保持して系外への流出を防ぎ、効率的に養分を循環させる施業を検討できます。
このように、樹木と土壌との間での物質のやり取りについての仕組を理解して、それを生かして持続的に木材を生産することや土壌の持つ基盤サービスを低下させない物質循環の機能を維持する森林管理が重要です。


林床被覆率
森林内で落葉か下草がどれだけ地面を覆っているかの割合。

土壌侵食量
降雨量に応じて移動する細土(直径2mm 以下の土)の量。
図表1 237456-1.jpg
図表2 237456-2.jpg
図表3 237456-3.jpg
図表4 237456-4.jpg
研究内容 https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2016/documents/p8-9.pdf
カテゴリ くり 施肥

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