熱帯雨林の光合成能力は樹木の高さで決まる

タイトル 熱帯雨林の光合成能力は樹木の高さで決まる
担当機関 (国)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 田中 憲蔵
市栄 智明
発行年度 2016
要約 熱帯雨林では個葉の光合成能力が樹高と共に増加するので、光が強い林冠層での効率の良い光合成が、森林全体の高い炭素固定能を支えていることが分かりました。
背景・ねらい 熱帯雨林の炭素固定能を正確に把握することは、地球規模での炭素収支を推定するために不可欠です。しかし、多様な樹木からなる熱帯雨林の炭素固定能を正確に推定することは困難です。そこで、マレーシアの熱帯雨林に設置された高さ約90mの林冠観察用クレーンを用いて、低木から樹高50mを超える巨木まで100以上の樹種について、個葉の光合成速度を測定しました。その結果、熱帯雨林では熱帯季節林と異なり、樹高が高いほど個葉の光合成能力が増加することを発見しました。これは、降水量の多い熱帯雨林の林冠の葉は、昼間に蒸散で失った水分を夜間に十分吸水して翌日の乾燥ストレスに対応できるためでした。この知見は熱帯雨林の炭素収支を高い精度で推定することに貢献します。
成果の内容・特徴 熱帯雨林の炭素固定能と葉へのアクセス
熱帯雨林は大量の炭素を蓄積し、気候変動の緩和に貢献しています。将来、気温や降水量が変化した際に熱帯雨林がどう応答するのか予測するためには、樹木の葉の光合成能力を正確に評価する必要があります。しかし、熱帯雨林は、薄暗い林床から強い日光を受ける林冠まで複雑な構造と環境を持ち、さらに樹木の種数も膨大なため(図1)、多数の樹種の葉に直接アクセスして光合成能力を調べることはこれまで非常に困難でした。本研究では、科学技術振興機構によりボルネオ島に設置された高さ約90mの林冠観察用クレーンを利用して、樹高50mの木の梢端も含めて詳細な調査を行うことにしました(図2)。

温帯林や熱帯季節林との違い
温帯や熱帯季節林での研究から、背の高い樹木は梢の先の葉まで水を吸い上げることが難しいため、樹高がある程度以上高くなると光合成が低下することがわかっていました。しかし、熱帯雨林の100以上の樹種について、樹高1mの小さい木から50mを超える巨木までを含めて光合成を測定したところ、樹高が高くなると光合成速度は増加し、高木ほど炭素をたくさん固定できることが分かりました(図3)。
高木でも光合成が低下しない原因として、年中湿った熱帯雨林の気候が関係しているようです。葉は日中、二酸化炭素を吸収するために気孔を開きますが、同時に大量の水が失われて乾燥ストレスを受けます。熱帯雨林の樹木も日中は強い乾燥ストレスを受けていますが、夜明け前には根からの吸水によってストレスから回復していました(図4)。つまり、熱帯雨林では、大量の水を消費しても夜間に水分を十分補給できるため、高木の林冠でも光合成の低下が起こりにくいことが分かりました。

気候変動の影響
将来、熱帯雨林地域では、干ばつの頻発や気温の上昇が危惧されています。夜間に水を補給できる熱帯雨林の樹木でも、強い乾燥に上手く適応しきれない可能性があります。例えば、1997年にボルネオ島を襲った100年に一度の大干ばつでは、多数の高木が枯死しました。将来、もしこのような干ばつが頻発すると、多くの樹木が枯死し、大規模な森林の劣化が引き起こされる危険があります。一方、測定した樹木の中には節水型の樹種もみられたことから、今後は更に樹種ごとの特徴を解析することで、気候変動のより詳細な影響評価が可能になると思われます。

本研究は、環境省総合地球環境研究推進費「アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究 (S-9)」 と JSPS 科 研 費(JP24405032, JP24688017)による成果を含んでいます。

詳しくは Kenzo T. et al.(2015)Height-related changes in leaf photosynthetic traits in diverse Bornean tropical rain forest trees. Oecologia,177:191-202 をご覧下さい。
図表1 237473-1.jpg
図表2 237473-2.jpg
図表3 237473-3.jpg
図表4 237473-4.jpg
研究内容 https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2016/documents/p42-43.pdf
カテゴリ ICT 乾燥

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