前方選抜による初期成長に優れた第二世代品種の開発

タイトル 前方選抜による初期成長に優れた第二世代品種の開発
担当機関 (国)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 田村 明
高橋 誠
倉本 哲嗣
加藤 一隆
平岡 裕一郎
星 比呂志
発行年度 2016
要約 我が国の林木育種で初となる、検定データを使用して優良系統を選抜する前方選抜により、スギのエリートツリーの中から初期成長に優れた品種を、これまでの手法と比べて極めて短時間で開発しました。
背景・ねらい 林業の成長産業化のためには、育林経費の中で大きなウエイトを占める下刈り経費を削減することが重要です。エリートツリー(第二世代精英樹)は、これまで普及の主体であった第一世代精英樹よりも成長が優れており、これらの中から初期成長に優れた品種を開発することによって下刈り期間の更なる短縮が期待できます。今回、前方選抜という方法を使って初期成長に優れた第二世代スギ品種を3品種開発しました。この方法は、選抜個体そのものや親、兄弟等の血縁個体の検定データを使って選抜する方法です。我が国の林木育種で初めてとなる選抜方法であり、従来の品種開発方法と比べて大幅に開発期間を短縮することが可能です。

エリートツリー
第一世代精英樹の後代の中から優れたものを選抜した第二世代の精英樹あるいはそれ以降の世代の精英樹の総称。

精英樹
品種改良や優良種苗の生産を目的として、主として人工林から成長等が優れた個体を選抜したもの。スギでは、北海道~九州の国有林と民有林から約3,700本が選抜されている。
成果の内容・特徴 初期成長に優れた第二世代品種の必要性
我が国の森林・林業において、林業の成長産業化が重要な課題となっています。とりわけ諸外国に比べて高額な育林コスト、特に下刈り等の造林初期のコスト削減が重要です。このため、初期成長が従来より優れた第二世代品種を早急に開発することが必要です。

前方選抜とその特徴
これまでの品種開発では、候補となる個体の実生苗(実生苗は、次の世代であるため、候補個体の「後代」と呼ばれます)の成長等を調べ、その結果から優れた品種を選抜する方法(後方選抜)で行ってきました。後方選抜は、選抜の確度は高いですが、後代の成長を調べるのに長い期間がかかります。これに対して前方選抜は、選抜の候補となっている個体やその親、兄弟等の血縁関係のある個体の調査結果(検定データ)から、当該個体の遺伝的能力を表す指標である育種価を推定して優良な個体を選抜する方法です(図1)。後代の成長調査等を行わずに済むので、短期間で品種を開発することができ、時代のニーズに応じた品種を早期に開発できます。この方法はすでに海外の林木育種先進国で採用されていますが、我が国の林木育種に適用したのは今回が初めてです。

前方選抜による品種開発
関東育種基本区において、スギのエリートツリーの中から前方選抜を用いて、5年次の樹高の育種価が優れた3 個体を品種として開発しました(図2)。開発品種から生産される後代の苗木の5 年次樹高の改良効果を試算したところ(表1)、「初期成長に優れた第二世代品種(F)スギ林育2 -76号」は、その後代において、第一世代精英樹の樹高平均値(3.04m)と比較して6.2%(20cm)高くする能力があると推定されます。加えて、開発品種の後代の苗木は、同じ種類の開発品種で構成される採種園から生産されるため、花粉親からも優れた性能をもらい受けることとなります。よって、例えば、初期成長に優れた第二世代品種(F)スギ林育2-76号と2-70号の交配でできる苗木(後代)は、5年次において第一世代精英樹の樹高平均値に比べて平均11.4%(36cm)向上することが期待できます。今回開発した3品種は、いずれも特定母樹に指定されており、初期成長に加えその後の成長や材質等も優れており、林業の成長産業化に貢献する品種として期待できます。

実生苗
種子から育成した苗。

育種価
その個体が親として子に樹高や材質などの性能を伝えることが出来る能力(遺伝的能力)で、数値が大きいほど遺伝的な改良効果が大きい。例えば、樹高について、優良個体A(育種価+1m)と優良個体B(育種価は+2m)の交配からできる後代は、遺伝子の半分が後代に伝わることから、個体Aの育種価の1/2とBの育種価の1/2 を合わせた1.5mが、平均的な個体よりも向上することが期待できる。

特定母樹
「森林の間伐等の促進に関する特別措置法」の平成25年5月の改正により創設された、特に優良な苗木を生産するための種子や穂の採取に適する樹木であって、特に成長が優れたものとして農林水産大臣が指定するもの。
図表1 237482-1.jpg
図表2 237482-2.jpg
図表3 237482-3.jpg
研究内容 https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2016/documents/p60-61.pdf
カテゴリ 育種 コスト 品種 品種開発 品種改良

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