明視野条件下、高コントラストで菌根菌を染色する方法

タイトル 明視野条件下、高コントラストで菌根菌を染色する方法
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター
研究期間 2015~2015
研究担当者 大友量
小八重善裕
発行年度 2015
要約 西洋わさびペルオキシダーゼを結合した小麦胚芽凝集素とジアミノベンジジンを利用するDAB染色法により植物根中の菌根菌を選択的かつ高コントラストで染色できる。従来のトリパンブルー染色に比べて安全で組織保存性が高く、低倍率での観察が可能である。
キーワード アーバスキュラー菌根菌(AM菌)、小麦胚芽凝集素(WGA)、ジアミノベンジジン(DAB)、低倍率観察、組織保存性
背景・ねらい アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は作物の根に共生してリン酸などの養分吸収を促進するため、低投入型農業技術での活用が期待されている。AM菌の共生度合いを判定するには、植物根を染色して顕微鏡で観察することが必要である。従来よく用いられているトリパンブルー(TB)染色法では毒性のある色素を用いる上に、染色像のコントラストが必ずしも高くなく、高倍率での観察が必要である。近年、コントラストの高い染色法として蛍光標識した小麦胚芽凝集素(WGA)を用いた蛍光染色の報告例が増えているが、観察には蛍光顕微鏡や暗室などの高価な設備が必要である。そこで、WGAを用いたAM菌の染色法を明視野での観察が可能な方法に改良する。
成果の内容・特徴
  1. WGAはAM菌の細胞壁成分であるキチンを特異的に認識する。西洋わさび由来のペルオキシダーゼ(HRP)を結合したWGA(WGA-HRP)でAM菌を標識すると、標識部位ではHRPによって酸化されたジアミノベンジジン(DAB)が茶褐色の色素として沈着する。このことを利用したAM菌の染色法(DAB染色法、図1)を提案する。
  2. この方法は従来のトリパンブルー(TB)染色法と比較してコントラストが高い(図2A、B)。このため、低倍率の観察でも菌の構造を容易に見分けられる(図2C)。
  3. この方法はTB染色法とは異なり、粘性の高い保存液(乳酸やグリセリン)を用いないために組織保存性が高く(図3)、染色後の根の取扱いが容易である。
  4. この方法は今回示したダイズ以外にトウモロコシ、タマネギ、ヒマワリ、バレイショ、イネ、ミヤコグサなどにも適用可能であり、ダイズ同様にコントラストの高い染色像が得られることを確認している(データは示さない)。
  5. この方法は、蛍光色素で標識したWGA(WGA-FITC)を用いる染色法と比べて植物の自家蛍光に由来するバックグラウンドが低い(図4)。
成果の活用面・留意点
  1. 普及対象:AM菌の研究・調査を行う、研究機関や公設試験場・大学など
  2. 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:論文引用5件/年
  3. その他:本染色法で用いるWGA-HRPはトリパンブルーに比べて高価であるが、染色液の溶媒として用いるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)はTB染色で用いられる乳酸より安価であるため、染色液一定量あたりの単価はTB染色の1.5倍程度である。 本方法は細胞壁にキチンをもつ真菌一般を染色する。そのため、他の植物共生糸状菌や植物病原糸状菌の染色にも応用可能である。従来法と同様、真菌の中でAM菌のみを特異的に染色するものではないことに留意する必要がある。 本方法で根の透明化に用いる水酸化カリウム(KOH)は劇物である。またDABは変異原性が疑われており、これらは取扱いに注意が必要である。これ以外には毒性や刺激性の強い試薬を用いないため、TB染色よりも安全な染色法として普及が期待できる。
図表1 237566-1.gif
図表2 237566-2.gif
図表3 237566-3.gif
図表4 237566-4.gif
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/harc/2015/15_041.html
カテゴリ 小麦 大豆 たまねぎ とうもろこし ばれいしょ ひまわり わさび

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