カイコのオス化遺伝子を利用した雄蚕飼育法の開発

タイトル カイコのオス化遺伝子を利用した雄蚕飼育法の開発
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
研究期間 2013~2016
研究担当者 笠嶋(炭谷)めぐみ
内野恵郎
鈴木雅京
酒井弘貴
勝間進
木内隆史
瀬筒秀樹
発行年度 2016
要約 メス決定因子Fem piRNAによる分解を受けない耐性型Masc(Masc-R)を全身で強く発現する遺伝子組換えカイコのメスは若齢幼虫で致死する。この仕組みは雄蚕飼育法に応用できる。
キーワード 雄蚕飼育法、性決定、遺伝子組換えカイコ、メス特異的致死
背景・ねらい カイコ(Bombyx mori)のオスが吐糸する絹糸は、メスのそれよりも細く、繊度偏差も少ないことから糸質的に優れている。また、同量の餌量を摂取させた場合でも、オスの生糸の生産量は、メスよりも約20%も多いことが知られている。カイコは飛翔能力を失っているため、カルタヘナ法に基づく第一種使用、すなわち環境中への拡散を防止せずに行う飼育が承認されているが、カイコのメスは外部から侵入し得るクワコ(Bombyx mandariana)のオスと交雑する可能性を排除できない。そのため、有用系統の維持や遺伝子組換え体の周辺環境へ影響するリスクを排除する上でもオス個体のみを飼育する雄蚕飼育法の必要性が指摘されている。したがって、カイコの飼育個体を自在にオス化する技術の開発は産業上極めて有用である。そこで、カイコの性決定に関与する遺伝子を利用したメスの致死(あるいはオス化)が可能か検討する。
成果の内容・特徴
  1. 本成果は、メス決定因子Fem piRNAによる分解を受けない耐性型Masc(Masc-R)をUASの下流に組込んだ組換えカイコを樹立して得られたものである(図1)。
  2. UAS-Masc-R系統を全身性Gal4系統と交配させたF1では、メス個体が致死する(図2)。
  3. UAS-Masc-Rの過剰発現では、卵黄タンパク質遺伝子の発現が著しく抑制されるなどメスがオス化する。また、Masc-Rの発現によって卵巣の一部に精巣様の組織が分化する(図3)。この結果は、Masc遺伝子がオス分化を担うことを示している。
成果の活用面・留意点
  1. 植物食性の害虫を多く含む鱗翅目では、性決定機構がほとんど分かっていない。本研究の結果は、Masc 遺伝子がオス化に働くことを示している。将来的には、このような性決定機構に関わる遺伝子は害虫防除にも役立つ可能性があり、学術的、産業的にも意義がある。
  2. 雄蚕飼育が可能な品種としては、「プラチナボーイ(登録商標)」(大日本蚕糸会)が知られている。プラチナボーイは、国産ブランド糸として市場に出ており、その品質の高さには定評がある。しかし、この品種は特殊な系統や交配が必要であるため、例えば、遺伝子組換え系統に応用することは難しい。本成果はどのような系統にも応用できる点で、今後の付加価値のある繭を生産するような新しい養蚕業に多いに寄与できる画期的技術開発といえる。メスが不妊化されるため、有用なカイコ系統の流出を防ぐためにも利用可能な技術と期待される。
  3. Masc-R はオス分化能のほか、オスのZ染色体の遺伝子量補償にも関与しており、Masc-Rの発現によって、オスの体重低下による糸量の低下が認められた。この点は、検討を要するマイナス要因であるが、解決できる見込みはある。当ユニットでは、1.発現量を増加するためのトランスジェニックベクターの改良、2.絹糸線における遺伝子発現制御に関わる遺伝子の解析、3.絹糸線におけるミトコンドリア活性の上昇、ATP合成能の増強などの生糸生産能力の向上に関する研究が進んでいる。これらの技術を組み合わせることにより、より良い糸をより多く生産できる仕組みの構築を目指す。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2016/nias16_s13.html
カテゴリ 病害虫 カイコ 害虫 品種 防除

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