タイトル | 熱帯地域の乾燥落葉林の光合成の季節変化-乾季に入っても光合成が活発だった- |
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担当機関 | (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
田中 憲蔵 飯田 真一 清水 貴範 玉井 幸治 壁谷 直記 清水 晃 Chann Sophal |
発行年度 | 2017 |
要約 | カンボジアの乾燥落葉林で優占樹種の光合成や蒸散の季節変化を調べ、乾季の初めにはしばらく落葉せず雨季とほぼ同程度の光合成能力を維持することや、林冠木が稚樹より高い光合成能力を持つことを明らかにしました。 |
背景・ねらい | カンボジアでは、乾季に落葉する乾燥落葉林が国土の約25%を覆い、森林の炭素や水循環にとって重要な役割を担っています。この乾燥落葉林の樹木は、乾季でも数ヶ月は葉をつけており、この時期の光合成や蒸散活動の変動は、地域の炭素や水循環に大きな影響を及ぼしているはずです。そこで、優占するフタバガキ科2樹種の稚樹から成木までの個体を選び、光合成能力などの季節変化を調べました。その結果、乾季初めの光合成は雨季に比べるとやや低下するものの葉の気孔開度には変化がなく蒸散も活発であること、また、林冠木は稚樹より光合成能力が高いことなどが分かりました。この知見は、カンボジアの森林に気候変動が及ぼす影響の予測に役立ちます。 |
成果の内容・特徴 | インドシナ半島に広く分布する乾燥落葉林 雨季と乾季が明瞭なインドシナ半島の熱帯地域には、乾季に落葉する乾燥落葉林が広く分布しています。半島の中央部に位置するカンボジアでは、乾燥落葉林が国土の約25%を覆い、この地域の森林の炭素や水の循環において重要な役割を担っています。乾燥落葉林の樹木は、雨がほとんど降らない乾季でも数ヶ月は葉をつけているため(図1)、この時期の光合成や蒸散活動に伴う炭素や水の動きは無視できないと考えられます。しかし、これまでその実態はよく分かっていませんでした。 乾季に入っても数ヶ月間は高い光合成を維持する そこで、カンボジアの乾燥落葉林に優占するフタバガキ科の2樹種について、稚樹から成木まで様々な生育段階にある個体を選び、光合成能力や葉の形態、性質などがどのように季節変化するのかを調べました。その結果、乾季の初めは、光合成速度は雨季に比べるとやや低下するものの、葉の気孔の開度には変化がなく、蒸散も活発に維持されていました(図2)。さらに乾燥が進むと、土壌水分が大きく低下して落葉しますが、乾季中盤から後半の最も乾燥する頃には、新葉が展開し光合成や蒸散が可能な状態になっていました(図1)。しかし、この頃の新葉は気孔がほぼ閉じた状態にあり(図2)、強い乾燥に対して蒸散を抑制する方法で乾燥ストレスを回避していることも分かりました。 林冠木は頑丈な葉を持ち光合成能力も高かった フタバガキ科樹木については、林冠木が稚樹に比べて光合成速度が高く(図2)、潜在的な光合成能力を示す最大炭酸固定速度や最大電子伝達速度も高いことが分かりました。このことは、林冠木の葉は乾季初めでも強い光を有効に利用でき、森林全体の炭素固定に寄与できることを示しています。また、林冠木は硬くて分厚い葉を持つことで(図3)、林冠部で受けやすい乾燥や強風などのス トレスに適応していることも分かりました。 この研究で得られた乾燥落葉林の樹木の光合成に関する知見や個々のパラメータは、プロセスモデルを用いた林分レベルの炭素循環や水収支の推定に役立つとともに、カンボジアの森林に気候変動が及ぼす影響を予測する上でも大いに活用することができます。 研究資金と課題 本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究「アジア地域熱帯林における森林変動の定量評価とシミュレーションモデルの開発」による成果を含んでいます。 |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2017/documents/p14-15.pdf |
カテゴリ | 乾燥 炭素循環 |