生物多様性と炭素を守る新しい仕組み-環境保全オフセット-

タイトル 生物多様性と炭素を守る新しい仕組み-環境保全オフセット-
担当機関 (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所
研究期間
研究担当者 岡部 貴美子
古川 拓哉
小山 明日香
原口 岳
北岡 哲
滝 久智
服部 力
正木 隆
佐藤 保
五十嵐 哲也
松浦 俊也
長谷川 元洋
発行年度 2017
要約 日本では、環境アセスメント法に基づき、開発の影響を最小限にとどめる努力をすることとなっています。環境保全オフセットは、それでもなお残る生物生息地と炭素への負の影響を代償し、ゼロにする試みです。
背景・ねらい 日本では1997年に成立した環境アセスメント法に基づき、一定規模以上の開発に際して、生物多様性を含めた環境保全に十分配慮することが求められています。海外にはこれをさらに進めて、開発によって生態系が受ける負の影響を代償することで、自然の損失をゼロにする試み(生物多様性オフセット)を実施している国々があります。そこで日本へのこの制度の導入を目指し、オフセットを実施するサイトを検討するとともに、損失分のカウントに利用可能な生態系の定量的評価手法を開発しました。加えて、この評価手法開発では、炭素の損失ゼロも目指しています。本研究により、生物多様性にも、炭素にも優しい「環境保全オフセット」を提案しました。
成果の内容・特徴 環境アセスメントと生物多様性オフセットとの関係
環境アセスメント(環境影響評価)制度では、一定規模以上の開発に際し、事前に人や生物の多様性などへの影響を調査、予測して、十分に環境保全に配慮することが求められます。生物多様性オフセットでは、さらに環境への負の影響をゼロにすること(オフセット、代償)を求めます(図1)。

どこでオフセットを実施すべきか
開発地に負の影響が残った場合、オフセットが実施可能な地理的範囲(オンサイト)を決めておくことが必要です。そこで、生物多様性オフセットが都道府県単位で制度化されると想定し、動物の分布を分析しました。その結果、森林性の哺乳類、鳥、昆虫の普通種の約半数は、都道府県内の1か所(10kmメッシュの1メッシュのみ) にしか生息していないことが分かりました。つまりオフセットは都道府県内で行うことと決めてしまうと、保全において見過ごされやすい普通種の半分は、分布地が確保されない可能性のあることが明らかになりました。一方、オフセットの範囲を隣接都道府県に広げると、この問題は概ね解消できることも分かりました。オフセットの実施には類似の生態系を共有する、隣接する都道府県がお互いに連携することが必要です。

生物多様性と炭素は同時に守れるか?
森林は温室効果ガスの二酸化炭素を吸収したり、蓄積したりする重要な役割を担っています。そこで私たちは、炭素の保全にも着目しました。いったん牧草地などに使われて劣化した生態系でも、その後樹木の多様性が回復して二次林となった場合(回復二次林と呼ぶ)には、劣化のない二次林(更新二次林と呼ぶ)と炭素蓄積量に大きな差がありませんでした。したがって、二次林から成 熟林を経て老齢林へと誘導する生物多様性オフセットを実施すれば、炭素蓄積量の回復も期待できます(図2)。

生物多様性と炭素を評価し、保全する「環境保全オフセット」
以上の結果をとりまとめ、私たちは生物多様性オフセットに炭素保全を追加した、「環境保全オフセット」を提案します。また負の影響をゼロにするための生態系評価法として、豪ビクトリア州で開発された「ハビタットヘクタール法」の改訂版を提案します(表1)。日本版の特徴は、①日本の生態系の特性に合致、②炭素保全の観点を追加、③ランドスケープレベルの影響をオフセット技術開発に利用する、というものです。今後は、環境保全オフセットの社会実装に向け、さらに技術開発を進める必要があります。

研究資金と課題
本研究は、環境省環境研究総合推進費「1-1401環境保全オフセット導入のための生態系評価手法の開発」による成果です。
研究内容 http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2017/documents/p16-17.pdf
カテゴリ 評価法

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