タイトル | 4種類の無花粉スギ原因遺伝子のゲノム上の位置を特定 |
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担当機関 | (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
松本 麻子 上野 真義 内山 憲太郎 伊原 徳子 二村 典宏 森口 喜成 津村 義彦 岩井 淳治 宮嶋 大介 斎藤 真己 |
発行年度 | 2017 |
要約 | これまでの花粉形成過程の観察から、無花粉スギの原因遺伝子には4種類あることが推定されていました。遺伝解析によりこれらの遺伝子は、ゲノム上の全く別々の場所にあることが分かりました。 |
背景・ねらい | 毎春のスギ花粉の飛散は大きな社会問題で、対策として花粉を飛ばさない無花粉スギの活用が期待されます。これまでに花粉形成過程の観察と人工交配実験により、無花粉の原因となる雄性不稔遺伝子が4種類 (ms1 ~ ms4)あると推定されていました。この課題では、すでにゲノム上の位置が特定されているms1とms2に続き、不明だったms3とms4について位置の特定に成功しました。その結果、ms1、ms2、ms3、 ms4の全てがゲノム上の異なる場所にあることが分かり、別々の遺伝子であることが確かめられました。 この結果から、4種類の異なる遺伝子を利用した多様な「無花粉スギ」の育種が可能になり、今後の花粉症対策に対する重要な知見となりました。 |
成果の内容・特徴 | スギ花粉症を軽減させるために 毎年春先のスギ花粉の飛散は多くの人々の花粉症を引き起こし、大きな社会問題となっています。花粉発生源対策の一つとして、花粉を飛ばさない無花粉スギの利活用が期待されています。無花粉スギは、スギ林の中から見つかった珍しいスギで、雄花の中で作られる花粉の発達過程に異常があり、正常な花粉を作ることができませ ん(図1)。一方、雌花は正常に機能するので、花粉を正常につける個体から花粉を受け取って種子を生産することができます。 これまでに発見された4種類の雄性不稔遺伝子 これまでに、全国から約20個体の無花粉スギが発見されています。顕微鏡を使った雄花での花粉発達過程の詳細な観察と人工交配実験などの結果から、スギを無花粉にする雄性不稔遺伝子が少なくとも4種類(ms1 ~ ms4)あると推定されてきました。 雄性不稔遺伝子のゲノム上の位置の特定 4種類の雄性不稔遺伝子のうち、ms1とms2のゲノム上の位置はすでに明らかになっていましたが、ms3と ms4については不明でした。そこで、これらの無花粉スギそれぞれを母親に、正常に花粉を作るスギを父親にした人工交配を行い、遺伝分析を行うための家系を育成しました。この家系の遺伝分析を行うことで、雄性不稔遺伝子ms3およびms4がゲノム上のどこに存在するかを特定することに成功しました。スギゲノムは11の連鎖群で構成されており、今回の成果によりms3は第1連鎖群、ms4は第4連鎖群に位置することが分かりました。これらは今までに知られているms1(第9連鎖群)とms2(第5連鎖群)とも別の連鎖群に位置しており、いずれも異なる遺伝子であることが確かめられました(図2)。 花粉を飛ばさないスギにも多様性が必要 花粉を飛ばさないスギを造林することは、花粉発生源対策の一つとしてとても有望です。しかし、遺伝的な多様性が低下した林を作ってしまうと、病虫害や気象害などで大打撃を受ける危険性が高まります。この研究課題では、スギが無花粉になる4種類の雄性不稔遺伝子の存在が明らかになりました。これらの遺伝子を利用することで多様な「無花粉スギ」の育種の可能性が生まれ、花粉発生源からの花粉症対策につなげることができます。 研究資金と課題 本研究課題および課題の一部は、森林総合研究所交付金プロジェクト「有用遺伝子の特定に向けたスギ全ゲノム走査」、JSPS科研費(JP25850116)「無花粉スギの分子育種基盤の構築とそれを用いた識別DNAマーカーの開発」、JSPS科研費(JP25450223)「花粉を飛散しないスギ品種を高精度で判定する技術の開発」および生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出基礎的研究推進事業「スギ優良個体の選抜のためのゲノムワイ ドアソシエーション研究」による成果です。 |
研究内容 | http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2017/documents/p38-39.pdf |
カテゴリ | 病害虫 育種 DNAマーカー 品種 |