経営資源を汎用利用する所得安定性の高い林畜複合経営

タイトル 経営資源を汎用利用する所得安定性の高い林畜複合経営
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター
研究期間 2013~2017
研究担当者 千田雅之
発行年度 2017
要約 クヌギ林放牧による原木椎茸と肉牛生産で構成される林畜複合経営は、経営資源の家族労働力と繁殖牛、里山の汎用利用が行われ、単一経営と比べて各部門の作業労働や経費が低減されるため収益性が高く、生産物価格の変動に対して所得安定性が高い。
キーワード 肉牛、原木椎茸、林畜複合経営、クヌギ林、放牧
背景・ねらい 中山間地域では管理作業の負担の大きいことから放棄された里山が増加し、異常気象に伴う災害発生のリスクを高めている。また、肉牛繁殖経営では飼養管理の省力化や飼料費低減が課題となっている。こうしたなかで、原木椎茸と肉牛生産で構成される林畜複合経営は、経営資源の汎用利用を通じた里山の保全と所得安定に寄与する方式として、地域的に根強く存続する。そこで、里山でのクヌギ林放牧を行う林畜複合経営を対象に、経営資源(家族労働力、繁殖牛、里山)の両部門への汎用利用の実態とその経済的効果を解明するとともに、モデル分析を通じて収益面等から単一経営と比べた優位性を明らかにする。
成果の内容・特徴
  1. 事例経営(九州中山間、標高550mに立地)は夫婦2人で繁殖牛18頭と里山20haの管理を行い、肉牛と原木椎茸生産を行う。各部門の年間作業労働は1800時間前後であるが、肉牛部門の飼料生産と椎茸部門の下草刈作業は夏季に行われ、椎茸部門の原木伐採や種菌接種、収穫作業等は冬季に集中するなど、作業労働の季節分散が図られている(図1)。
  2. 繁殖牛は自家の里山12haに放牧飼養し、子牛生産を行うとともに、林床のネザサ等を採食し、クヌギの育林にも寄与する(図2)。これにより牛の飼養管理作業が248時間、クヌギ林の下草管理作業が334時間節減される。また、放牧牛によるクヌギへの施肥と廃ほだ木の敷料利用など副産物の相互利用が図られている。さらに、里山は肉牛部門への飼料供給と椎茸部門へのほだ木供給の汎用利用が行われている(図1)。
  3. 家族労働力のもとで、椎茸単一経営、或いは肉牛単一経営を行った場合と林畜複合経営の場合で、経営規模、所得、資源利用等を比較すると、林畜複合経営では、肉牛単一経営の約3分の1の繁殖牛頭数と、少ない労働時間でほぼ同額の所得が得られ、家族労働力で約19haの里山の保全管理が可能と試算される(表1)。
  4. 椎茸及び子牛の過去30年の価格変動のもとで、単一経営と林畜複合経営の所得を推計・比較すると、林畜複合経営の所得(平均601万円)は高位安定的であり、とくに椎茸や子牛の価格低下時でも、椎茸単一経営(平均449万円)、肉牛単一経営(569万円)と比べて所得低下が抑えられており、林畜複合経営の収益安定性は高い(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. 通年就労可能な農林業経営の構築、初期投資の少ない肉用牛繁殖経営の構築、里山の保全管理に有効な方法として、中山間地域等で活用できる。
  2. 経営試算は事例経営の各部門の技術係数の分析に基づいて構築した経営計画モデルを線形計画モデルプログラムXLPを用いて行ったものである。
  3. 生産要素価格は2015年時点の価格を前提とした結果であり、稲WCSの購入価格は生産コストを大きく下回る乾物1kgあたり33円であることに留意する必要がある。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/warc/2017/warc17_s07.html
カテゴリ 経営管理 コスト 飼育技術 省力化 施肥 中山間地域 肉牛 繁殖性改善

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