タイトル | スギ林の遮断蒸発の鍵を握る樹皮の雨水貯留 |
---|---|
担当機関 | (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
飯田 真一 清水 貴範 玉井 幸治 野口 正二 澤野 真治 荒木 誠 Delphis F. Levia 清水 晃 壁谷 直記 延廣 竜彦 |
発行年度 | 2018 |
要約 | 森林の遮断蒸発のメカニズムを詳しく検討するため、詳細な遮断の計測と浸水実験を行いました。その結果、降雨中に発生する遮断蒸発は少なく、主に樹皮に貯留された水分が降雨後に蒸発することを明らかにしました。 |
背景・ねらい | 森林に降った雨の一部は地面まで到達せずに遮断蒸発します。遮断蒸発量は雨が降っている間の蒸発量と葉および樹皮に貯留される雨水の量の合計ですが、これらの測定例は少なく、遮断蒸発の詳細なメカニズムは不明のままでした。そこで、時間間隔を短くしてスギ林の遮断強度を1時間ごとに調べました。その結果、遮断強度は降雨の継続とともに減少し、降雨前半の遮断量が遮断蒸発量の大半を占めることが分かりました。このことは降雨中の蒸発量よりも、葉と樹皮の雨水貯留量が遮断蒸発に重要であることを示唆します。そして、浸水実験により雨水貯留量の7割以上が樹皮によることも明らかとなりました。この成果は遮断蒸発量の高精度の予測に役立ちます。 |
成果の内容・特徴 | 遮断強度の計測は手間がかかる 森林に雨が降ると、その一部は地面まで到達することなく蒸発して大気に戻ります。この遮断蒸発は降雨の1~3割にも相当するほど多く、森林の水循環に重要な役割を果たしていますが、その発生メカニズムについては不明な点が多く残されていました。その理由として、1時間ごとの短い時間間隔での計測事例が極めて少なく、降雨中の遮断強度の実態が不明であったことが挙げられます。遮断蒸発量は、降雨量、地面まで到達する樹冠通過雨量、ならびに幹の表面を流下する樹幹流量をそれぞれ個別に計測し、これらの3つの要素の収支に基づいて算出されます(図1)。遮断強度を正確に計測するためには、3つの要素を同時に、短い時間間隔で測定しなければなりません。このことが遮断強度の実測を実現するための大きなハードルとなっていました。 遮断強度は降雨の継続とともに減少する そこで、私たちは転倒マス型流量計を用いて従来よりも詳細に遮断蒸発を計測する技術を開発し、スギ壮齢林を対象として1時間ごとの測定を3年間にわたって行いました。その結果、遮断強度は降雨の初期に大きく、降雨の継続とともに減少する傾向を示しました(図2)。合計21の降雨について前半と後半の遮断量を検討すると、前半の遮断量は遮断蒸発量の9割以上に相当することが分かりました(図3)。これらの傾向は、降雨開始時に乾燥していた葉および樹皮が降雨の継続とともに徐々に濡れてゆく、すなわち雨水を貯留する過程を反映していると考えると矛盾無く説明することが可能です。 雨水貯留量の7割以上が樹皮によるもの 次に、同じ森林から採取した葉と樹皮を用いて浸水実験を行いました。その結果、葉と樹皮に貯留される雨水貯留量は遮断蒸発量とほぼ一致し、遮断蒸発量の大部分が雨水貯留量であることが判明しました。さらに、雨水貯留量の7割以上が樹皮によるものです。これらのことは、降雨中に遮断蒸発が生じるのではなく、多くはスギの樹体に付着し貯留されてしまい、降雨後に蒸発していることを示しています。 この研究は、これまで考えられていた以上に遮断蒸発がスギの樹皮による雨水貯留によって支配されていることを明らかにした画期的なものです。この知見は、スギのように樹皮が厚い針葉樹の遮断蒸発を正確に予測するためのモデルを作成する場合に役立ちます。ただし、広葉樹は針葉樹と比べて樹皮は薄いことが多く、葉の形も異なるため、広葉樹の遮断蒸発は樹皮以外の要因に影響を受ける可能性があります。 |
研究内容 | https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2018/documents/p6-7.pdf |
カテゴリ | 乾燥 |