タイトル | 世界自然遺産候補の奄美とやんばるの森で、生物多様性の保全と森林利用の調和をはかる |
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担当機関 | (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
阿部 真 正木 隆 齋藤 和彦 小高 信彦 安田 雅俊 安部 哲人 高嶋 敦史 岩井 紀子 杉村 乾 |
発行年度 | 2019 |
要約 | 国内屈指の生物多様性ホットスポットである奄美大島とやんばるの森で、地域を象徴する希少種の生態を明らかにするとともに、生物多様性の保全と森林利用との調和をはかる森林管理を提案しました。 |
背景・ねらい | 奄美大島と沖縄島北部のやんばるの森林で、生物多様性の保全と森林の利用を両立させるため、希少なトゲネズミやカエル類の生態調査に有効な技術を開発しました。また、やんばるで、施業履歴や林齢などの林分情報を更新するとともに、林冠構造を広域的に把握し、大径・高齢林分を抽出しました。さらに、着生ランや樹洞の分布から、希少種の生息環境を維持するためには高齢林の保全が重要であることを明らかにしました。一方、年間の伐採面積が現状レベルであれば、生物多様性の保全に対する林業の影響は限定的であることも示唆されました。以上の成果の共有や、成果を踏まえた提案が、地域のゾーニングや動植物の保護管理に活かされています。 |
成果の内容・特徴 | 生物多様性のホットスポット 日本の南西諸島には世界的に稀な亜熱帯性多雨林が分布し、多くの固有種を含む極めて多種の動植物が生息しています。わが国は奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島の特に生物多様性の高い森林について、2017年と2019年に、世界自然遺産への登録をユネスコの世界遺産委員会に推薦しました。一方、これらの島々では多くの固有種が絶滅の危機に瀕しています。林業による天然生林の伐採は、絶滅のリスクを高める可能性がありますが、奄美大島や沖縄島北部のやんばるでは重要な経済活動です。そこで私達は、両地域で生物多様性の保全と森林の利用を両立させていくための研究を行いました。
希少種の調査技術を開発 生物多様性の保全のためには、希少な動植物の生態を知る必要があります。そこで、やんばるを代表する希少種、オキナワトゲネズミの観察ツールである「巣箱カメラ」を開発しました(図1)。これにより、精度の高い生息地探索と、糞の採取や個体の識別が可能になりました。また、奄美大島を代表する希少種として、アマミイシカワガエル、オットンガエル、アマミハナサキガエルの3種について、沢の水からDNAを抽出して生息の有無を判定する手法を確立しました。これによって、これらのカエルの調査を簡便に実施できるようになりました。 林分情報の更新と詳細化 森林の管理では林分の歴史や状態を正確に把握することが重要です。やんばるの森の林齢や施業履歴の記録を掘り起こし、地図を更新しました(図2)。また、航空機レーザー測量(LiDAR)の数値から、広範囲の地形と林冠高を把握しました。さらに、施業履歴にない大径・高齢の林分を、空中写真の判読により抽出しました。詳細な林分情報をもとに植生の現地調査をおこなった結果、施業履歴によって林分の階層構造や絶滅危惧種・外来種の数が大きく異なることがわかりました。また、高齢林に依存する希少種を効率的に発見できるようになりました。 生物多様性保全の鍵は? やんばるにおいて、固有の着生ランであるオキナワセッコク、そして日本最大の甲虫であるヤンバルテナガコガネなどが利用する樹洞(大きなウロ)の分布を調べました。その結果、イスノキなどの大径木を含む高齢林が希少種の生息地として重要であることを明らかにし、優先的に守るべきであるという提案をおこないました。また、やんばると奄美大島における近年の伐採面積から将来の林齢構成を計算した結果、若齢林は減少していくと予測されました。林業の影響は縮小傾向と考えられますが、生物多様性保全のために丁寧なゾーニングが必要です。 森林管理への利用 開発した調査技術によって得られた新たな知見にもとづき、希少種の保全や回復をはかる林分の管理を提案しました(図3)。以上の成果は、国有林や県・村等の森林管理者、また環境省那覇自然環境事務所(現 沖縄奄美自然環境事務所)等の自然保護行政当局と共有することで、ゾーニングや動植物の保護管理に活用されています。また、国による世界自然遺産推薦の際に、推薦区域の選定に貢献しました。 |
研究内容 | https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2019/documents/p16-17.pdf |
カテゴリ | 亜熱帯 あま |