タイトル |
安価な含鉄副産物を利用した玄米の無機ヒ素濃度の低減 |
担当機関 |
(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター |
研究期間 |
2015~2017 |
研究担当者 |
須田碧海
山口紀子
牧野知之
谷口隼人
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発行年度 |
2018 |
要約 |
含鉄副産物を土壌に施用すれば玄米の無機ヒ素濃度を抑制できる。ヒ素を吸収しにくくする節水栽培と組合せることで、さらに無機ヒ素濃度を低減できる。市販含鉄資材に代わり含鉄副産物を利用することで、低コスト化が期待される。
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キーワード |
ヒ素、カドミウム、含鉄副産物、水管理
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背景・ねらい |
ヒ素は環境中に普遍的に存在する有害元素である。日本人は、無機ヒ素を主食であるコメから摂取する割合が高い。水稲によるヒ素吸収を抑制し、玄米に含まれる無機ヒ素濃度を低減するには、土壌溶液中のヒ素濃度(溶存ヒ素濃度)を低下させることが効果的である。溶存ヒ素濃度は継続的な湛水条件で上昇するため、玄米ヒ素濃度は湛水栽培では高く節水栽培では低くなる。また、市販含鉄資材の施用によりヒ素を不溶化することで、湛水栽培における玄米無機ヒ素濃度の上昇を低減できるが(2017年度研究成果情報)、資材コストの負担が課題である。そこで本研究では、資材調達コストを抑えるために、市販含鉄資材から含鉄副産物への代替を目指す。さらに、含鉄副産物の施用と節水栽培を併用することで、玄米無機ヒ素濃度の低減効果を強化できるか検討する。
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成果の内容・特徴 |
- 本成果の含鉄副産物とは、使用済スチールショット(副産物A)とスチールショット製造時の副産物(副産物B)である。スチールショットとは投射材として鋳物の砂落とし等に利用される鋼鉄製の球状粒子である。副産物Aは金属鉄、副産物Bは酸化鉄を主成分とし、鉄含量はそれぞれ864g/kg、642g/kgである。
- 含鉄副産物や市販含鉄資材を添加した土壌を湛水条件で培養し、溶存ヒ素濃度の推移を調査した結果から、含鉄副産物は市販含鉄資材と同様に溶存ヒ素濃度を低減することができると考えられる(図1)。なお、培養初期の含鉄副産物による溶存ヒ素濃度低減率は市販含鉄資材より小さいが、溶存ヒ素濃度自体が低いため実用上は問題とならない。
- 水稲ポット栽培試験においても、含鉄副産物の施用による顕著なヒ素の不溶化が認められる。湛水栽培における溶存ヒ素濃度は無施用では約120μg/Lまで上昇したが、施用すると常時低濃度に抑制される(図2左)。節水栽培の節水期間の溶存ヒ素濃度は無施用でも極めて低い(図2右)。
- 含鉄副産物の施用による玄米無機ヒ素濃度の低減率は、湛水栽培では32~66%、節水栽培で21~58%であった(図3)。無施用区の湛水栽培を基準とすれば、含鉄副産物と節水栽培の併用により玄米無機ヒ素濃度は64~81%低減したことになる。
- 含鉄副産物の施用は、湛水栽培における副産物B2.4wt%施用で玄米収量を低下させた(-18%)以外は、玄米収量・地上部収量・リンやケイ素の吸収量にほとんど影響を与えなかった。
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成果の活用面・留意点 |
- 含鉄副産物の施用効果は土壌特性・栽培条件などの影響を受け、上記の結果は特定の条件において得られたものである。様々な栽培条件・圃場における効果については、生育への影響と併せて十分な検証が必要である。
- 市販含鉄資材と同様に、含鉄副産物は土壌中で徐々に変質するため、施用効果の持続性について長期間の検証が必要である。
- 含鉄副産物を利用すれば、成分が類似する市販含鉄資材よりも数十%程度のコスト削減が期待できる。ただし、生産現場で利用するには、肥料登録、流通ルートの確保などが必要である。
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研究内容 |
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/niaes/2018/niaes18_s03.html
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カテゴリ |
肥料
コスト
栽培条件
水稲
低コスト
水管理
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